消費者物価「市場予想超え」4.2%上昇でも、アメリカは金融政策「正常化」に動かないと言える理由
(出典:2021年5月14日 BUSINESS INSIDER)
アメリカでは、インフレや賃金上昇が起きており、ダウ平均株価が乱高下を繰り返しています。当然、日経平均株価も大幅に乱高下するなどその影響をもろに受けています。
1月20日のバイデン政権誕生から上昇し続けていた株価が、5月から下落し始めたのは、アメリカのインフレ懸念の高まりによる長期金利上昇への警戒感であるのは明らかです。今後、インフレが長期化する可能性が高いため、急激な経済回復が突然止まることになりかねません。
具体的なデータとして、アメリカの4月消費者物価指数(CPI)の発表では、総合指数が前年同月比で4.2%上昇し、食料やエネルギーを除くコア指数も3.0%上昇、エネルギー価格は25.1%も上昇しています。
その他、鉄鋼や中古車価格が20%も上昇するに伴い、レンタカーの料金は80%、住宅価格も14%上昇するなど、特にインフレ率が高い品目があります。アメリカのインフレはあらゆる製品に拡大しつつあり、穀類や果物など加工食品の原材料も上昇し始めています。
卸売りや小売業者は、今年の10月頃までは在庫分を販売できますが、在庫がなくなると値上がりした分を価格に上乗せする必要がどうしても必要になると思われます。つまり、あらゆる商品の価格が現在の1.5倍近くになるということです。
また、コロナで価格が下落した中古車と家賃ですが、全米平均で急激に価格が上昇し始めています。急激な景気回復時に見られる典型的な現象ですが、アメリカでは企業の設備投資や賃金が上昇して消費が活発な証拠です。
U.S. Economic Rebound Proves More a Grind Than a Boom
(出典:2021年5月16日 Bloomberg)
ところが、インフレ率が上昇する要因の一つが「失業したほうが就労状態よりも収入が多い」ことです。突然、不況に向かうリスクを暗示させる兆候として、逆転現象が起きています。日本の生活保護受給者にも同じようなことが起きていますが、それとは少し状況が似ています。
時給が低い仕事ほど、失業しているほうが働いている時よりも収入が高い一方、時給が高くなるほど就労時の収入が上回る傾向が強くなっています。時給18ドルで、ようやく格差がなくなる計算になります。
なぜこのようなことが起こっているかと言えば、全ての失業者に収入の90%を政府から給付されているからです。日本では、失業保険という6ヵ月間も同じ給与を貰える社会保障制度がありますが、アメリカにはありません。
米国で“巨額バラマキ”が行われても、日本では「難しい」理由
(出典:2021年5月12日 ITmadiaビジネスONLINE)
バイデン政権が実施している新型コロナウイルスのための経済対策は、国民一人当たり約16万円の給付金を配ることです。今後、総額420兆円の予算を使い、20年間でインフラ再建のプロジェクトを開始しました。
その他、失業保険の給付期間の延長や、給付金の増額、低賃金の仕事を対象にした特別給付なども含まれており、失業中でも収入が就労時を上回るような状況が3月から続いているというわけです。
一人当たり10万しか給付していない日本では、アメリカで起きているような収入の逆転現象は起きていません。ヨーロッパ諸国にも起きておらず、バイデン政権下のアメリカだけに起きている奇妙な現象です。
アメリカの景気回復シナリオに「誤算」が生じ始めた理由
(出典:2021年5月17日 会社四季報ONLINE)
そのような状況の中、アメリカでは仕事があっても働かずに失業状態を選択する人々が増えており、失業率が高くなり始めています。4月以降、急速に経済回復が進むアメリカでは、仕事が増えているので雇用が生まれていますが、むしろ失業率は下がる気配がありません。
仕事が増えても失業率が上昇する現象は、給付金で働く以上の収入を上回ることで起きてきます。失業状態を選ぶ人々が増えているということは、job(誰でもできる仕事)としか認識していないからです。
それよりも、work(その人しかできない仕事)を見つける必要がありますが、当分の間働かなくても所得が得られる状態にあるうちは、消費量は以前よりも増えてきます。その結果、需要の増大からますますインフレ率が上昇し、物価が上がるという悪循環が起きます。
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