DO YOU SPEAK ATLAS?|第2話

レッスン初日である。

学校のシステムは、平日朝12時から21時まで、土曜日は10時から19時まで、60分のレッスンでマンツーマン英会話以外に、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、ドイツ語も習える。生徒は自分の都合を担当講師に伝えて予約する。もちろんキャンセルも可能な大変便利なシステムである。しかもレッスンが終わった都度、直接その講師に3,000円を支払う毎回払い制というのは画期的である。全国の英会話スクールでもここだけではないだろうか。

由起夫君は仕事が午後5時に終わるので、午前中や午後の早い時間帯でレッスンを受けることができなかった。彼は午後6時からのレッスンを予約していた。

彼は10分前にスクール内に入った。目の前にサロンがあり、映画や外国のファッション誌、本などを見ながら担当講師に呼ばれるのを待っていた。全部で20以上あるレッスンブースがこのマンツーマン英会話の人気を物語っていた。

「僕、今日が初めてのレッスンなんですよ」

彼は隣に座っていた女性に話しかけた。

「レッスンって、どんな感じなんですかねえ」

「私もまだ始めたばかりなんですよ」

「へえ、そうなんですか」

レッスンが終わったのか各ブースから外国人講師たちがやってくるのが見えた。彼は外国人が大挙して押し寄せて来たように感じ、少しばかり緊張した。

「ハロー ユキオ!」

見たことがある顔が数メートル前にあった、担当講師のステファニーである。

笑顔を絶やさない実に可愛らしい顔である。もう一度簡単な自己紹介を行った。その後レベルチェックをもとに使用するテキストも開いて、それに沿ったレッスンを行うのだが、彼は自分の会話能力のなさに愕然とする思いであった。彼は28歳であったが、彼らの世代は少なくても中学・高校と英語を習っているはずであり、大卒者であれば読み書きは相当な能力に達しているものと彼は考えていた。しかし、一旦テキストから目を離すと、《オレンジジュースをもう一杯ください》の英文が出てこないのである。彼は自分がまったくの初心者であることを実感した。


講師「どうぞ入ってください」

由起夫「ありがとうございます」

講師「お座りになって、体を楽にしてください」

由起夫「ええ」

講師「オレンジジュースをお飲みになりますか」

由起夫「ええ、お願いします」

講師「クッキーはどうですか」

由起夫「いえ、今ダイエット中なんです」

このロールプレイをするのに彼はしどろもどろした。何とか身振り手振りでやるものの、まるで道化師である。しかし何故か女性講師は彼に対して親切であった。

テキストを使ったのはほんの20分であったが、その後は新聞の切り抜きで読む練習や発音矯正、簡単なトピックでフリートークをした。

「今日はこれで終わりにしますね」

「ありがとうございました」

ステファニーはテキストの片づけをしている。しばし沈黙が流れ、何故かお互いに憮然としたような表情になる。彼女がブースがから立ち去ろうとすると、彼は一言、「グッド・ナイト」と言った。彼女も応えた。彼は安心する。

文化的背景の異なる同士が初対面で共感しあうことは稀で、多くの場合、どちらかがどちらかを征服することになるという。

彼は学生時代に学んだこの命題が真理であることを悟る思いがした。お互い良い関係を結ぼうという気持ちがあっても、言葉がしゃべれなければ伝わらない・

「僕はまるで赤ん坊だな」

彼はそう考えた。これが彼のファーストレッスンである。


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