DO YOU SPEAK ATLAS?|第25話

10月になった。残暑も終わり、涼しくなる季節である。由起夫君は、春に次いでこの季節が好きであるが、彼はあまり中秋の名月が似合うといった性格ではない。それでも、時折は虫の響きに心を和ますこともあるらしい。

彼は61回目のレッスンで、デレックのレッスンを受けていたのだが、彼はこの時、クリスティーナに匹敵する美しい日本人女性の生徒に出会ってしまった。名前は礼奈さんと言う。

講師がレッスンブースに来る前に、由起夫君は彼女とロビーで2人で話をする機械に恵まれた。しかし、美女というのは周囲に強力な磁石でも発しているのであろうか、由起夫君は、ついつい彼女と話をするのに夢中になってしまったようだ。

デレックがレッスンブースに入っていくのが見えた。クリスティーナもやってきたが、彼女は隣のレッスンブースで、他の生徒を担当することになっていたようだ。由起夫君は、クリスティーナがレッスンブースのテーブルの上に荒々しくテキストを置いたのを見逃さなかった。

「今日は比較級について学びます」

デレックがテキストを開いて、何やらしゃべっているのだが、由起夫君は集中できないようである。それでも普段真面目にマンツーマンレッスンを受けている由起夫君にとって、レベル3の内容は卒業した感がある。事実、レベル3のテキストも最後の章にきていた。テキストの練習が終わり、雑談をして例の日本人女性の話をデレックにふってみた。

「北川景子に似ている20代の女性の生徒さんを知っている?」

Keiko Kitagawa?

「デレックは日本のテレビ見ないから知らないよね」

「日本のテレビはたまに見るけれど誰なんだい?」

「日本の女優だよ」

「そうか。でもそんな人が生徒でいるのかい?」

「レッスンの前にロビーで会ったんだけど、びっくりするほど美人なんだよ」

森高千里は、由起夫君の気に入った女優である。デレックは首をかしげながらレッスンブースを由起夫君と出たが、幸運にも礼奈さんが隣のレッスンブースから出て来たのである。デレックは退出した。そこは明らかに、これから特別な関係になりそうな男女の雰囲気があったらである。由起夫君は再び彼女と二人っきりになる機会を得た。由起夫君は、前にクリスティーナにプレゼントをあげて以来、彼女からお返しがないことを少々不満に思っていたようだ。

「礼奈さんの髪型って北川景子に似てるよね」

礼奈さんは、ふと、そうかしらといった表情になったが、それでもまんざらでもなかったらしい。礼奈さんと話をしながら、彼はふとクリスティーナの方を見た。彼女は憮然としてレッスンブースを去っていくところであった。由起夫君に勝利の微笑みが浮かんでいるのを、今度は礼奈さんが見逃さない。由起夫君の意識が彼女に戻ると、礼奈さんは、そそくさとロビーを去って外に出てしまった。

「さて、どうするべきか」

由起夫君は思った。彼の人生に訪れた、千載一隅のチャンスである。二兎追うものは一兎を得ずということわざもある。彼はどちらかを選ばなければならないようだ。


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