DO YOU SPEAK ATLAS?|第27話

由起夫君は、二兎追うことはしなかった。しかし結局のところ、一兎も得ることができなかったようである。彼は念願かなって高得点をたたき出した。その日、礼奈さんがロビーで他の生徒と話をしているのを由起夫君は見かけたが、今度は由起夫君の方を見ようとはしなかった。

しかし礼奈さんと懇意に話をしてしまった時点で、彼はすでに二兎を追ってしまったのであろうか。そう考えるのは彼にとってちょっと酷である。クリスティーナも恐らくそう思ったのであろう。

数日後、由起夫君は70回目のマンツーマンレッスンでクリスティーナに教わったが、この時の彼女は彼に対して大変優しかった。

「不眠症にかかったことがありますか?」

彼女は由起夫君に尋ねた。話題は眠りと夢の関係についてである。

「特にはないけれども」と由起夫君。

彼は健康優良児を絵にかいたような男であったが、彼にも一時期、眠れぬ夜に悩みをかかえていた頃があった。

「そういえば今はないけど、大学に入学してから2年間、朝起きれなくて悩んでた時期があったなあ」

「本当?」彼女は意外そうである。

「大学に入るために、一生懸命に勉強していたんだけど、それが実現したあと、目標を失って、ボンヤリしていた時期があったんだ。大学の講義もつまらないし、かといって他にこれといってやることもなかったし」

「そういうのって辛いよね」とクリスティーナ。

「昼とか夜とが逆転したような生活を送ってたね。クリスティーナはどう?」由起夫君はクリスティーナに尋ねた。

「そうねえ、朝起きるのは私も遅いわね。朝9時半頃かな。普段夜9時まで仕事しているから、そのあとアパートに帰って、ご飯作って、食べて……。テレビを見たりしていると、すぐに朝2時になっちゃうのよ。そのあとに寝てるから…」

由起夫君の現在の起床時間は午前7時前後である。これは由起夫君が殊勝であるというよりは、仕事柄、その時間帯に起きざるを得ないというのが実情であった。

「僕が君の立場だったら、君と同じライフスタイルを送ってたと思うよ」

由起夫君にそう言われて、クリスティーナは微笑んだ。

そのあと、レム睡眠とノン睡眠の違いについて彼らは話したが、その時に由起夫君は、TOEFLの勉強をして学んだ事柄を思い出した。

「ハイパー・ソムニアって知ってる?」

クリスティーナは首を横に振ったので、彼は説明した。

「つまり、不眠症の反対で、過眠症のことだよ。車を運転している時や機械の操作などをしている最中に居眠りしてしまうんだ」

「危ないわね」とクリスティーナ。

「僕はそんなことないけど、過眠症で苦しんでいる人も多いらしい」

彼は自分が健康なのが誇らしげである。

由起夫君は、講師でも知らないような単語を自分が知っていることに気付いた。もっともそれはごくわずかではあろうが、どうやらTOEFLの勉強の成果が出たようである。彼は海外留学の夢をまだ捨てきれずにいるらしい。

60分のレッスンが終わり、クリスティーナは退出した。どうやら彼らは仲直りできたようである。


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