DO YOU SPEAK ATLAS?|第32話

年の瀬が近づいてきた。由起夫君は、せわしいこの時期が結構好きである。毎年1229日まで仕事をして、年末年始を迎えるのが、彼の職場の決まりになっていた。残りの日数で家の窓拭きをするのが、彼の家庭内での役割分担になっている。すべてをやり切った末あとの大晦日の晩は別格である。爽快感と新年に対する期待感の入りまじった気分で、年末のテレビ番組を鑑賞するのが、彼の習慣なのであった。

マンツーマンレッスン75回目にして、由起夫君は今年最後のレッスンを受けていた。講師はクリスティーナである。

「TOEFLの結果が返ってきたよ」

由起夫君はそう言った。彼にしてはまずまずの成績だったようである。

「あら、そう。それで何点だったの?」

クリスティーナに尋ねられ、彼は応えた。

496点」

彼は前回よりも、70点アップしていたのだが、本人はさほど満足はしていなかった。550点にはまだ遠いと思っているらしい。

「いつか600点を超えたいと思っているんだけど、まだまだダメだね」

「そう。それは残念だったわね」

クリスティーナはそれほど関心がなさそうである。TOEFLといえば、所詮学術英語を習得していることになるのだが、Atlasマンツーマン英会話の講師も各々個性があって、クリスティーナはTOEFLを教えたりはしていなかった。彼女はいわば横浜ラーニングスタジオの保母さんのような存在になっていた。

「それじゃ、レッスンを始めるわね」

クリスティーナはそう言って、テキストの34章を開いた。ここでは、「私はかつて、よく~していたものだった」という会話表現をマナブことになっている。

「それでは、このフレーズを使って何かしゃべってみてください」

クリスティーナはそう言って由起夫君の方を見た。

「私は、小学校の頃によく本を読んでいました」「私はよく、大学に通っていました」

彼は気のきいた台詞が思いつかず、首をかしげながら言った。

5年ぐらい前に」

思い出したように彼が付け加えたので、クリスティーナは笑った。

「どこの学校に通っていたの」

「東京にある大学だよ」

クリスティーナに尋ねられて、彼は応えた。由起夫君は2つの大学に通った経験を持っている。しかし学歴については、彼には複雑な思いがあったので、彼はこうした話題を語るのには、いつもためらう癖ができていた。

「ここから東京に通うのでは大変ね。どうやって通ったの?」

「東西線に乗って通っていた。これが一番安いし、乗り換えなしで大学に着けるんだよ」

東西線とは、首都圏内の営団地下鉄線の一つである。東西に延びている所から、こうした名称がつけられたのだろう。

「クリスティーナはどこの大学に通っていたの?」

「それは秘密(笑)」

彼女はそう言って沈黙した。由起夫君はオーストラリアの大学に関しては疎かったが、彼女の雰囲気から、それとなく察することができた。


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