DO YOU SPEAK ATLAS?|第6話

Atlasでのマンツーマンレッスンも回を重ね、由起夫君は今日で7回目のレッスンを受けることになる。この回数を受けるまで彼はアメリカ人女性と代行講師のイギリス人男性に教わったが、今日、彼は休暇が終わって戻ってきた女性講師と出会うことになった。レベルチェックで面接した、ステファニーである。彼は内心、大変喜んでいたが、表面は平静を装っていた。

「私、今日で28歳になったの」

偶然にもその日、彼女は誕生日を迎えていた。

「それはおめでとう」

これは生徒の一人で、山本さんの一言。そこで由起夫君も「おめでとう」と言った。

英語では「おめでとう」を「コングラチュレーション」と言う。我々は英語で彼女を祝福したのだが、それに対して彼女は、

「コングラチュレーションじゃなくて、コミゼレーションよ」と応えた。

「コミゼレーションって何?」

山本さんが質問する。英語では、「みじめ」という日本語を「ミゼラブル」と言う。それに引っ掛けて「コミゼレーション」と言ったのだが、はっきり言ってこれは俗語である。辞書にも載っていない。日本人の立場からすると、こうした造語が増えてしまっては、覚える単語が増えて迷惑千万なのであるが、時代や地域によって言葉は変わっていくものらしい。言葉は生き物と言われるように、変化していくのは仕方のないことなのであろうか。

「また歳をとっちゃったわ」

「まだ若いじゃない」

女性は非常に年齢を気にする。由起夫君も気にならないわけではなかったが、やはりこうした会話はなるべく避けた方が良いようである。

由起夫君も努力のかいあって、これくらいの会話ならなんとか理解できるようになってきた。皆さんから怒られそうな彼女とのロマンスの始まりであるが、ご安心あれ、残念ながら彼らはその後も何も起こらないまま終わるのである。

しばしの会話の後、彼らはテキストのレッスンに入った。内容は結婚式についてである。

「これは伝統的な教会での結婚式です。新郎と新婦は教会を去っていきます。新婦は白くて長いウエディングドレスを着ていて、一束の花をかかえています…」

「なぜ彼女はこの文章を選んだのだろう?」

彼女は一人で考えてた。レベル2の内容は60章から構成されていて、他にも異なる内容はたくさんあった。にもかかわらずこの文章を選んだということは…。

「…今晩、新婦の両親はこう言うでしょう。私たちは娘を失うんじゃないわ、私たちは息子を迎えるのよ。さて、以上です。何か質問はありますか?」彼女は締めくくった。

由起夫君は多少狼狽した。彼は仏教徒である。というよりもキリスト教のことはほとんど知識がなかった。彼も結婚願望は人並みにあったが、まだ先のことのように考えていた。それに結婚式場をどうさがすべきかという段になると、まるで考えがなかった。

「何も質問はないの?」

彼女の表情に、ありありと失望の色が現れてきた。目的としていたものを得られなかった時のそれである。彼は何か言わねばと思った。

「グルームって何て意味?」

「ああ、これはね…」

彼は少しホッとしたが、お互い共有する言葉が少ないために、会話を続けるのが難しいのは、先刻申し上げた通りである。レッスンは険悪化していった。

「それでは、60分を過ぎたのでレッスンを終わりにします」

彼女は憮然としてレッスンブースから出て行った。あとには彼一人が残されていた。

「まいったな、これは」

彼は一人考えた。彼女を怒らせてしまったので彼には不安があった。しかし美しい女性から好感を寄せられていたかも知れないのである。これで良い気のしない男はいないだろう。

「今度プレゼントを贈ってみよう」

彼は一人考えてレッスンブースを退出した。ロビーを隔てて講師の控え室が見えるのだが、彼はガラス越しに彼女の姿を追ってみた。しかしひとけはなく、彼女の姿を見ることはできない彼は一人去った。


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