DO YOU SPEAK ATLAS?|第9話

その後、彼は週に2回のマンツーマンレッスンを受けるように心がけた。例えば、火曜日に1レッスンを受けたら木曜日もという具合である。その間の日は何をしているかというと、前日のレッスンの復習をしていた。彼はああ見えても結構真面目な性格なのである。

彼は、語学の習得は段階的に伸びていくということを学生時代に日本人の英語講師から聞いたことがあった。同じことをAtlasのバイリンガル女性カウンセラーからも聞いていた。カウンセラー曰く、努力をしてもしばらく効果が現れない時期があるのだが、それを超えると、またもや伸びないスランプの時期があるが、しばらくすると、またさらに一段上の域に突然達するという。こうした進歩の仕方を、哲学では弁証法という。確かにそうかもしれないが、由起夫君には、語学の習得は一種の振幅運動に思われた。レッスン後のロビーでの休憩中、講師との語らいの場で、彼は火星人たちに最初は全く相手にされなかったが、それでもない知恵を絞り、前日に頭の中で考えてきたことをみんなの前で発言した。すると火星人たちも、「

おお、こいつはなかなかしゃべれるのかな?」

と思ったようである。由起夫君もそれ見たことかと思う。しかし、それを言った後は、彼の頭の中は再び空っぽである。やがて話題は他のことに移り、理解できていない彼の姿を見て、火星人たちは、

「なんだ、この程度か」

と思う。由起夫君も落ち込む。しかし、ここで由起夫君は再び奮起するのである。彼は良い評価と悪い評価の間を行ったり来たりしていた。まるで振り子のようである。東洋思想でいえば、六道輪廻ということになるのかもしれない。

レッスンも15回目を数えるようになり、由起夫君は、ステファニーにこう聞かれた」

「あなたの好きな映画は何ですか?」

由起夫君はこう聞かれてはと困った。彼の観る映画といえば、DVDで見るお笑いコメディアンの類がほとんどである。それらは映画ではない。しかしそれを言ってしまえば、日本人の文化レベルは低いと侮られてしまう。そこで彼は背伸びをした。

「そうだね。最近ならスリーハンドレッド(300)なんか良かったかな。あとはタイタニックなんかも好きだね」

それを聞いたステファニーの目の色が変わった。彼女は大学時代、シェークスピアを愛読していたという。彼女は由起夫君と議論を交わしたく思ったが、由起夫君の会話能力は、まだその域にまでしか達していない。

「私はエリザベス・テイラーの生まれ変わりなんです」とステファニーは言い、苦笑して話題を変えた。

「好きなミュージシャンは誰ですか?」

「僕は、クイーンが好きです」

クイーンとは、由起夫君が小学生の時に売れていたロックバンドである。先日、由起夫君は友人とカラオケボックスでQueenのボヘミヤン・ラプソディーという歌を歌ったことを思い出した。

「あの曲、格好いいんだけど、とても難しいんですよ。イギリスのロックバンドだけにGreat Britainだよね。アメリカ人からすればちっともGreatではないかもね。

ステファニーもその曲は有名だったので知っていた。アメリカ人である彼女はしばらく低く笑った。そんなこんなで由起夫君は彼女のお気に入りになったようだ。

冗談というのは、人間関係の潤滑油の働きをするものであり。大変重要なものである。その点、由起夫君はなかなかのものになってきた。しかし、それだけでは、骨格をなすものがない。彼にはまだまだ乗り越えなければならないハードルがあった。


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