日本人の気質が関係しているのか、同調することを良しとする社会のありかたのせいなのか、こうあるべきというところから英語の学習をスタートさせると、どうしても伸びを妨げてしまい、悪影響のほうが多くなるようです。
発音もそうではないでしょうか。細かく指導されたために、発音にコンプレックスを持ってしまっていて、英語を話すことに抵抗を感じている人も多いようです。最近は地域で大人の人たちと一緒に英語の会を開いているのですが、「どんな発音でも大丈夫」、そういう雰囲気を作り上げると躊躇せずに話せるようになる人が本当にたくさんいます。
胸のつかえが取れて、堰を切ったかのように英語を繰り出される、そんなケースも多いようです。そもそも日本の学校教育では、生の英語の音声を聞く機会がほとんどありませんから、まずはドラマでもラジオでも歌でもアニメでも何でもいいので、たくさんの音声に触れるようにすれば、英語はそれなりに通じる音になっていくものです。
個人的にお世話したお子さんたちをみても、フォニックスを教えたり発音記号を教えたり、そんなお勉強っぽいことをしなくてもすらすらと音読し自然となめらかに話せるようになっていきます。ですが、先生方の間では発音記号へのこだわりはまだまだ強いようです。
数か月前、高校に用があった私は学習室でこのような経験をしました。
私: 「よく勉強してるね。」
生徒:「だって、宿題が終わらないんですよ。」
私: 「しばらく見てたけど、ずっと辞書をめくっているよね。意味を調べてるの?」
生徒:「違いますよ。発音記号を見ているんです。」
私: 「見ているって?声に出して、発音を練習するんじゃなくて?」
生徒:「別に発音できなくてもいいんです。単に単語を見つけてノートに写すだけだから。」
私: 「どういうこと?」
生徒: 「ここに発音記号が書いてありますよね。」 (ノートの左側、上から下まで20個ぐらいの発音記号がと書いてある。) 「ここに書いてある発音記号の全てについて、教科書の中から、その発音記号が含まれている単語を見つけて、書き出すんです。発音わからないから、辞書で調べてるんです。」
私: 「なんかそれってパズルみたいだよね?」
生徒:「パズルかなにかよくわかんないけど、宿題だからやってるんです。」
私:「……。」
学校英語というのは本当に奇怪です。最近、私の母が中国語を勉強し始めました。中国語といえば発音が難しいとよく言われますが、彼女もこの発音の段階で苦労しているようです。そして私に相談してきました。「延々と続く発音練習、本当にこんなに必要なのかなあ?」と。
そして図書館では、専門家が書いた本の中にこんな文章を見つけたそうです。「発音にご注意。ちょっとの違いがとんでもない違いになるので、発音には気を抜けない。店員さんから横っ面を張られることを覚悟しなければならない。」
英語の専門家もよくこんな話をします。ジャパニーズ英語ではとんでもない誤解を受けるので、最初に発音練習をしっかりしておかないと後で苦労する、と。ですが、発音でトラブルが生じたという話は、実は大げさに面白おかしく伝わっているだけだと思うのです。
何かトラブルが起きるとしたら、それは発音の問題というよりも、他に原因があるのではないでしょうか。例えば、
①コミュニケーション不足
レストランで注文したのとは違う料理がきたりするのは、言葉が足りなかっただけでしょう。発音の問題ではありません。オーダーの前に、「これはどんな食材を使っていますか?」とでも尋ねておけば誤解は起きないはずです。
②自分の英語に自信を持ちすぎ
英語のお勉強ばかりしていると、実践は伴わずに、知識ばかりが豊富になってしまいます。そのため、自分では自覚なしに、ネイティブでもめったに使わないような表現を使ったり、ネイティブも顔負けの正確な文法で話しているのかもしれません。そのため相手は、「発音だけが慣れていない」とは考えないわけです。
あなたの英語を聴いて何か変だな?と思っても、「英語のレベルがこんなに高いんだから、聞こえたままに理解していいんだろう」と相手は納得してしまって、思わぬ誤解が生じるのではないでしょうか?勉強はやたらとするけれど、ユーザーとして英語をしゃべったりする機会が極端に少ないのです。そうした勉強と使う機会のアンバランスが招く行き違いは多そうです。
③相手が日本人の英語に慣れていなかった
おそらくこのケースが一番多いのではないかと推測するのですが、話をした相手が外国語や国際的なニュースに関心がなく、ごく狭い範囲で毎日暮らしているといった場合、日本人の話す英語を聞いたことはまずないでしょう。ですから初めて聞くあなたの英語は、耳に言葉として入ってこないのかもしれません。
相手の経験不足が原因で、理解してもらえないのです。ここを乗り越えるためには、自信をもって大きな声で英語を話すことです。そうすれば、相手は日本人の英語に慣れていって、次第にスムーズな会話が成り立つようになるでしょう。
あなたの発音が通じるものなのか、通じないものなのか。これはテストしてわかるものではないのです。実際に各国の英語話者とおしゃべりしてみるしかないのです。高いお金を払って発音矯正などといったトレーニングを受けたところで、通じやすい英語の音が出せるようになっていくという保証などどこにもありません。というわけで発音が気になるなら使ってみる、それがスタートです。 |