英会話のジオス倒産後の2010年4月から2015年12月まで、つまり5年以上の大手スクール収支額の前年同月比変化率を見ると、もっとも明瞭に示しているのは、アベノミクスには大企業を豊かにする効果は皆無だったという事実です。
たしかに、アベノミクスが実施される前から、企業の赤字が定着してしまっていました。しかし、アベノミクス実施前の日本経済は、円高の趨勢に乗って増加を続ける輸入をまかないきるほど輸出が伸びなかったための赤字であり、日本国民が海外から購入するモノやサービスの量は増えていました。
つまり、国民が買える海外製品の量が増えるというかたちで、国民を豊かにする赤字でした。そして、海外への投融資からの利子・配当収入が海外から日本への投融資への利子・配当支出を大きく上回っていた(所得収支の黒字)ので、国際収支全体で見れば、何ひとつ問題のない貿易赤字だったのです。
アベノミクス実施後の貿易赤字の性質はまったく違います。輸入の減少率より輸出の減少率のほうが大きいので、赤字になっているのです。つまり、日本国民が海外から買えるモノやサービスの量は円安によってかなり減少しているのに、それを上回るペースで輸出が減少しているのです。この円ベースで見ても輸出が減少しているという直近数ヵ月の傾向は「円安にすれば輸出が増加し、経済全体も活性化する」と称していたアベノミクス礼賛論者が完全に誤っていたことを示しています。
そもそも自国通貨を弱くすることによって輸出を拡大するという方針は、自国通貨ベースではなく、輸出相手国通貨ベースでの増加を達成しなければ、国民全体を窮乏化させながら、輸出業者の為替換算益という見かけだおしの利益増加をもたらすだけの愚策です。相手国通貨ベースで輸出が伸びていなければ、相手国から買えるモノやサービスの量は減少してしまうからです。
現実の貿易収支統計は、2013年秋から暮れにかけて円ベースで前年同月比約20%の輸出増加があったことになっています。しかし、この間に米ドルで評価した日本円は約20%下がっているので、海外通貨で見た日本の輸出はかろうじて横ばいを保ったに過ぎません。その後、2013年末から2015年末までの2年間でも20%弱の円安が進みましたが、この間輸出は増加率の縮小から、減少へと惨憺たる結果となっています。つまり、円安は日本経済活性化になんの貢献もしていないのです。
大手英会話スクールを運営する上場企業のニチイ学館(CoCo塾、Gaba)やベネッセ(ベルリッツ)などは、「いや、株価がこれだけ上がっているのだから、今は低迷していてもやがて日本経済は活気づくに違いない」という反論があるかもしれません。
しかし、それも去年の初夏に日経平均が21000円に挑戦するまでのことで、その後約20%も下がっています。何より、日本国民全体が「アベノミクスで、経済は良くなる」という議論をまったく信じていないのです。
日本の家計金融資産の総額と、そのうちの現預金と株式の金額を1997年から2015年6月までにわたって見ると、ここで最大の特徴は、やはりアベノミクス景気が始まる2012年末から、アベノミクス株高の頂点2015年6月に至る時期に、日本国民がどういうかたちで金融資産を持っていたかということでしょう。
表面的には株式資産の評価額がほぼ倍増しているので、やはり日本国民もアベノミクスを信じて積極的に株を買っていたように見えます。しかし、2012年末に8000円台後半だった日経平均は2015年6月には21000円近辺まで上がっています。
つまり、標準的な構成の日本株ポートフォリオを持っていれば、全然売買しなくても約140%の評価益が出ていたはずなのです。その中で家計金融資産中の株式部分がほぼ倍増しかしていないということは、アベノミクスをはやす報道の中で、日本国民は一貫して日本株を売っていたことを示しています。
その一方で、現預金にはほとんど何の利子収入もつかないのに、日本国民は堅実に現預金の持ち高を増やしていました。これは、もしインフレ・株高が定着するとすれば、非常に危険なスタンスです。
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