ウォール・ストリート・ジャーナルによると、スイスの金融機関はIRSの執拗な追及で、半ば諦めていると報道がありました。
もともとオバマ政権がUBSのアメリカ人秘密口座の開示を要求したのがきっかけで、音をたてるようにクレディスイスをはじめ、スイスの大手の金融機関がアメリカ政府の軍門に下ったのです。
それまでは秘密の口座を作るにはスイスだという合言葉があったくらいです。アメリカの強さは米ドルの信頼性です。これはユーロもルーブルも元も全くかないません。日本の円も同じで、米ドルはアメリカ経済とアメリカ軍に裏打ちされているからです。
世界の富裕層に愛されたスイスですが、しかしスイスの銀行はアメリカによって世界一透明度の高い銀行になりました。スイスを追い出された超富裕層の資金はどこに行ったのかというと、スイスの大手銀行が顧客を手放すなか、スイスに200以上もある中小の銀行が、アメリカ人客を受け入れることとなったようです。
その一つがチューリッヒに本拠地を置く銀行です。この銀行はもともと、地方銀行で中低所得者を顧客としていました。ところがアメリカ政府がスイス大手の銀行を攻撃して、超富裕層が逃げ出したのを見て、逃げた顧客を自行で囲い込んで儲かるビジネスだと思ったのでしょう。
2009年頃から、逃げ出した超富裕層75名のアメリカ人口座を新たに開設しました。その当時の経営者は、自行の客のほとんどがスイス人の中流家庭の人で、このような銀行にアメリカ政府が照準を充て、狙ってくることはあり得ないと思っていたと後日コメントしています。
しかし2012年にアメリカのIRSからアメリカ人顧客の開示要求が来たのです。そこでIRSの要求に応えるふりをして、密かにアメリカ人顧客の資金を、極秘に同規模の他のスイスの銀行に移動させたり、IRSの目から隠れるような方法で資金を引き出させていたり、隠蔽工作を行いました。
今まで2009年にUBSが7億8000万ドル(940億円)、2014年にはクレディスイスが26億ドル(3120億円)、レウミ銀行(イスラエル)が4億ドル(480億円)、スイス中小銀行42行で計3億6000万ドル(432億円)リヒテンシュタインレンデス銀行が2400万ドル(2880億円)。
これらを合計すると5万4000人ものアメリカ人が80億ドル(1兆円)のペナルティーを払い、その追徴された税額は120億ドル(1兆5000億円)にものぼります。日本の1年の相続税収入よりも多いのです。
アメリカのメディアによると、IRSは今まで入手した膨大な顧客データの分析を引き続き行い、スイスを叩いた後のアメリカ人資金は、いったいどこに行ったのかを、世界中探し回るとしています。どうもアメリカIRSは本気のようです。今後もまだまだオフショア口座に絡む金融機関、アドバイザー機関がアメリカ政府に裁かれるケースは多くなると予想されます。
私が不思議に思うのは、アメリカ国内に逃げ込んだ世界の脱税資金にはアメリカ政府は何も言いません。特に中国からの巨大資金については発表さえしないのです。雇用と投資が最優先のアメリカに逃げ込んだ資金については外国から絶対守るという姿勢を保っています。やはりアメリカはわかりやすい国です。
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