2016年5月12日に、2015年度の国際収支速報が財務省から発表されました。予想されていたこととは言え、貿易収支が2010年度以来5年ぶりに黒字に転じ、貿易・サービス収支に所得収支、資本移転収支を加えた経常収支は、前年度比でほぼ2倍の18兆円弱となりました。
日本経済新聞を中心とする大手御用メディアは、鬼の首でも取ったように、このデータが「日本経済は順調に回復している証拠だ」というような大宣伝をくり広げています。しかし、その中身は国民を日増しに窮乏化させることで成り立っている貿易収支の黒字転換であり、経常黒字の倍増でしかありません。
貿易収支は、2004年度までは日本が毎年大幅な経常黒字を確保する中で、安定して日本経済の稼ぎ頭でした。そして、2005年度に黒字貢献度首位の座を、第一次所得収支に譲り渡していました。
第一次所得収支とは、海外投融資に対する配当・利子収入から、海外から日本への投融資に対する配当・利子支払の差額を示す数字のことです。経常黒字の稼ぎ頭の座からは滑り落ちても、貿易収支は国際金融危機が起きていた2008~09年度も含めて、2010年度までは黒字を維持していました。
その貿易収支は、2011年度以降は2014年度まで赤字を続けていました。しかし、2012~14年度は、明らかにアベノミクス政策主導の赤字です。そして、2015年度にしても、輸出入とも70兆円台の前半という数値なのに対して、貿易黒字はわずか6300億円と、輸出入総額の0.5%にも満たない微小な金額でありませんでした。
さらに、この黒字転換は輸出が増えることによってもたらされたのではなく、「円安が進んでいたにもかかわらず」輸出は減少しましたが、輸入がさらに大幅に減少したことによってもたらされたものなのです。
2016年に入ってからは、円高・ドル安方向に為替市場が逆転しています。しかし、ドル・円相場は、2014年度の平均が109.75円だったのに対して、2015年度(2015年4月~2016年3月)全体を通じて120.13円へと円安が8.8%進んでいました。
さらに言えば、2013年度平均では100.16円だったので、この2年間の累計では16.8%も円安が進んでいたのです。また、2012年度の平均レートは約83円だったから、アベノミクスによる円安推進が進んでいた過去3年度で円の対ドルレートは31%近く下落していました。
この事実は、いったい何を意味するのでしょうか。日本国民が海外から輸入するモノやサービスを買う力をアベノミクス始動前の2012年度と同じ水準に保つには、少なくとも円ベースでの輸出額は30%以上増加していなければならないということです。
しかし、実際には2012年度の輸出額が62兆2000億円だったのに対して、2015年度は73兆1000億円と、17.5%しか増えていません。明らかに輸出相手国側の通貨で見れば約3割の大安売りをしているのに、現地通貨での輸出額はまったく伸びず、むしろ減っているのです。
日本経済の根幹は健全なので、アベノミクスによる円安・インフレ政策さえやめれば、日本には明るい未来が待っているでしょう。問題は、有権者がこの当たり前の行動を投票によって具体化することができるかに絞られてきました。
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