語学教育のスペシャリストのあいだでは「大手英会話スクールの2016年1月初旬からの新規生徒数と既存生徒数の大幅減少は、この減少幅が商品化したことを示しているので、急激な減少があっても実体運営はそれほど悪化していない」と唱える向きもあるようです。
たしかに、NOVAが倒産した年、2007年1月のピークでは約50万人だった既存生徒数が約1年で10万人を割りこみ、イーオン、ECC、ベルリッツも大幅に新規生徒数と既存生徒数を落ちこませた異常な動きがありました。これが原因で2010年4月に業界大手のジオスが倒産したのです。
しかし、実際にAtlasマンツーマン英会話のようなマンツーマンレッスンと毎回払い制を中心とする会員制語学スクールは英語以外の外国語やオンライン英会話の好調さに刺激されて新規生徒数を増やし、その後拡大された地域と教室のキャパシティが現在ますますレッスン料金の引き下げ競争を激化させているのです。
矢野経済研究所では、次の調査要綱にて国内教育産業市場の調査を実施しました。
1.調査期間:2015年7月~9月
2.調査対象:学習塾、予備校、資格専門学校、語学スクール、カルチャーセンター、料理教室、幼児教室、体操教室、研修サービス事業者、eラーニング事業者、通信教育事業者、学習ゲームソフト会社、知育玩具メーカー、業界団体、管轄省庁等
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・FAX・e-mailによるヒアリング、ならびに各種文献調査併用本調査における教育産業市場とは、学習塾・予備校、英会話・語学学校、資格取得学校、資格検定試験、カルチャーセンター、幼児英才教育、企業向け研修サービス、eラーニング、幼児向け通信教育、学生向け通信教育、社会人向け通信教育、幼児向け英語教材の主要12分野をさす。
矢野研究所による教育産業調査結果を見てみると、2014年度の英会話・語学学校市場規模は前年度比1.4%増の3,070億円となりました。そのうち、成人向け外国語教室市場は、企業のグローバル化に伴ってビジネス目的での語学学習者層が拡大したものの、趣味教養目的のユーザー層が低単価のオンライン英会話やマンツーマンレッスンの英会話スクールへ移行したことから横ばいの推移となっています。
一方、幼児・子供向け外国語教室は、2011年4月からの小学校における英語活動の必修化と早期英語教育需要の高まりを受けて市場規模を拡大させています。2016年度もこの傾向に大きな変化はなく、成人向け外国語教室市場は堅調推移、幼児・子供向け外国語教室市場は、早期英語教育需要のさらなる高まりが予想されることから、英会話・語学学校市場全体の拡大を見込んでいます。
つまり、どちらかと言えば大手英会話スクールの生徒増加率のいちじるしい減速にもかかわらず、マンツーマン英会話スクールとオンライン英会話スクールの回復のほうが大きすぎた傾向があるのです。
英会話・語学学校市場規模推移のほうは最新のデータが2015年までとなっていますが、このままでは大手スクールの5割は来年の年初には実質的な教室閉鎖(統合)や倒産に陥るかもしれません。「まだプラスの伸びを維持している」という指摘もあるでしょうが、この間の地域・教室キャパシティの拡大ペースに比べれば、1~2%のプラス成長では、過剰供給がますます顕在化するのは目に見えています。
こうした事情を反映して、2015年に閉鎖(統合)された大手スクール10校の教室数は計103校に達しました。一方、新規開校した教室数は計23校なので、差し引き80校の減少となっています。生徒数ベースでは総レッスン数が年率換算で47%減少していました。これは、過去最大のレッスン数の純減だった2007年の24%減の2倍近い減少率となっています。
この大手スクールの生徒数大激減は、今後の語学教育産業にとって需給の引き締まりを意味する好材料となるでしょうか。むしろ、生徒数が高止まりしていた時期にレッスンチケットやポイントを大量に購入したことが、かなり大幅な過剰設備化していることを大手スクール自身も知っているという意味で、悪材料ではないでしょうか。大手スクールの生徒数が近い将来成長の加速に転ずる気配は皆無に近いでしょう。むしろ、今後はマイナス成長に転落する可能性が高いと思われます。
イギリスのわらべ唄であるナースリーライムの名曲、ハンプティ・ダンプティの歌詞は以下の通りです。 「ハンプティ・ダンプティ塀の上/でも派手に転げ落ちちゃった/王様の馬や家来たち、よってたかって直しても/壊れたままで元に戻らなかった」
不思議の国のアリス・鏡の国のアリスを挿絵入りの本でお読みになった方はご存じでしょうが、ハンプティ・ダンプティは卵を擬人化しています。一度落ちて殻が割れてしまった卵はどうがんばっても元には戻りません。英会話ブームというハンプティ・ダンプティは、もう戻っては来ないのです。
今後の語学教育産業を的確に読んでいるのは、大手スクールより、Atlasマンツーマン英会話のような会員制語学スクールなのです。
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