2008年に起きた世界金融危機、いわゆるリーマンショックの元凶となったサブプライム住宅ローン債券の発行が再び増加していると報道されています。
この債券は、借金の返済が滞った経歴がある人々(個人の格付けがプライム以下の人)に対する住宅ローンの債権を集めて証券化したものでした。返済履歴が良い人がプライム(優秀)で、それ以下の人がサブプライム(プライム以下)とそれぞれ格付けされているわけです。
借金の延滞履歴がある人へのローンは高リスクなので金利が高く、特に、サブプライム債券はリーマンショックが起こる直前、つまり2008年8月を金融バブルのピークとした時期まで高利回りな投資対象として各金融機関では売られていました。
そしてリーマンショック後、サブプライム債券は一時的に発行がありませんでしたが、2015年頃から再び増加し始め、昨年末から増加傾向が拡大しました。昨年1年間で約40億ドルの発行高がありましたが、今年は3ヵ月だけですでに約14億ドル分が発行されています。
昨年3月の時点で約7億ドルの発行であったことから1年間でおよそ倍増したことがわかっています。現在は、サブプライムという商品名ではイメージが悪いため、優良な顧客にしか投資しない機関投資家にとって投資適格でないという意味でQMローン(non-qualified loans)という商品名が付けられています。
さらに、リーマンショック前のバブル膨張の時代の再来を象徴する最近の事態としてコブライト・ローンの再増加があるようです。コブライト(Covenant-Lite loans)とは、日本語で「担保が軽い」という意味があり、資金を融資する際の担保物件の評価を甘くしたり、担保の状態の確認作業を曖昧な状態でも貸してしまう融資や債券発行の形態のことです。
債務者の担保管理のコストが低い代わりに、債権者にとってリスクが高く、金利も高く設定されています。このコブライト・ローンの場合、リーマンショックのような金融危機が起こり、債務者が返済不能になった時、コブライトだと担保権を行使しても回収額が意外に少なくて債権者が連鎖破綻したりする可能性が高くなっているようです。
コブライト・ローンの融資は、リーマンショック後に発行が減りましたが、これも2016年頃から再び増え始め、2015年にすべての融資の約60%がコブライト・ローンだったものが、今ではアメリカの担保付き融資総残高9700億ドルの76%を占めています。
この占有率は2008年当時よりも大きく、しかも11か月連続で史上最大を更新しています。再びリーマンショック級の金融危機が起きれば、担保権を行使しても債権者が融資を取り戻せずに連鎖破綻する事態が多発すると言われています。
サブプライム・ローンやコブライト・ローンといった、リーマンショック直前の金融バブルの再来を思わせるような金融商品が増加し続けている最大の原因は、トランプ政権の就任以来、アメリカ当局が金融監督を甘くしていたということです。
アメリカでは、リーマンショックが起きた翌年の2009年に大統領に就任したオバマ政権が、金融界がリスクをかえりみずに投資し、バブルの膨張と崩壊を引き起こし、金融界自身が破滅する事態を繰り返さぬよう10年制定のドッド・フランク法で金融規制を強化しました。しかし、2017年に就任したトランプ大統領は、オバマ政権時代に行われた金融規制をすべて撤去すると公言し続けています。
アメリカ財務省はトランプ大統領就任後、オバマ政権時代なら当局に咎められた高リスクの取引を金融機関が行なっても何も言わない方針を発表しました。ドッド・フランク法の体制に行政運用上、多くの抜け穴が意図的に作られ、低金利の状況下で利回りに飢えていた金融機関は高リスク高利回りの投資を急増し、それがサブプライム・ローンやコブライト・ローンの再増加に繋がっているというわけです。
トランプ大統領はドッド・フランク法の日々の運用だけでなく、法律の中身を骨抜きにする改定も、就任当初から計画してきたように思います。まず中小の金融機関を法律の適用範囲から除外し、自由に高リスク投資ができるようにしています。
この手の骨抜きをやることでバブルが膨張し、金融危機が再発しやすくなるわけです。一方、アメリカ覇権主義の維持をしたい軍産複合体はドッド・フランク法の骨抜きに反対しています。しかし、今年に入り、トランプ大統領が軍産複合体との戦いにようやく勝利し、3月に鉄鋼アルミ関税や中国との貿易戦争の開始に踏み切りました。
そしてアメリカ議会は、ドッド・フランク法を骨抜きにする法案の審議を本格化し、議会上院で可決されています。特に、ウォール街は、自分たちの儲けが増えるドッド・フランク法の骨抜きに賛成で、この件でウォール街からアメリカ議会に多額の献金が行われているようです。今年の中間選挙で再選されたい議員たちが民主党からもドッド・フランク法に賛成しています。
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