香港国家安全維持法の「遡及適用」、日本人も巻き込まれる恐怖とは
(出典:2020年9月3日 Yahooニュース)
2019年6月に中国政府が制定した「国家安全維持法」の目的は、中国が香港に設置する「国家安全保障局」が香港の治安の監督を担当することです。
つまり、香港が部分的に統治機能を失い、中国に吸収されるということです。日本のマスメディアはほとんど報道していませんが、中国は「広東省・香港・マカオ大湾岸圏発展計画」という長期計画があります。
新インフラ整備が配置を加速 粤港澳大湾区の発展に力
(出典:2020年5月25日 人民日報)
香港で抗議運動が始まる前の2019年3月、中国の内閣にあたる「国務院」は、「広東省・香港・マカオ(大湾岸)計画」という地域開発プロジェクトを発表しています。
これは、香港とマカオの特別行政区と中国広東省にある各都市を経済的に統合し、技術革新や金融、貿易などそれぞれの都市が持つ強みを活かすことで、アメリカのシリコンバレーやウォール街、シカゴ先物取引所を統合させた競争力を備えた一大経済圏を構築するという計画です。
この計画によって、習近平政権が推し進める「一帯一路」構想に香港とマカオも統合されることになります。広東省から参加する大都市は、広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市の9都市です。
「粤港澳大湾区発展計画綱要」概要
(出典:2019年4月 JETRO)
これに香港とマカオを加えた11都市の人口は約7000万人にもなり、この湾岸経済圏(大湾区)は中国で最も開放された活力に満ちたエリアとなることが期待されています。20年前、私はこのエリアに長期滞在したことがありました。
また、20年以上も住んでいたアメリカのサンフランシスコ・ベイエリアでの経験から考えると、シリコンバレーのようなIT・ハイテク産業の中心地に、金融センターや先物市場が統合されるということは、世界中から有能な人材が全てここに集まってくることになるのは明らかです。
しかも、開発計画は2022年までとなっており、1年後にも稼働することになります。その後、11都市全てが統合される2035年まで長期的に開発を進めていくようです。
2019年8月18日、実際にこのような計画を具体化するガイドラインが、「中国共産党中央委員会」と「国務院」の連名で発表されています。ガイドラインの概要を紹介した文書では、中国共産党のサイトで読むことができます。
Pilot city to demonstrate China’s reform going deep
(出典:2019年8月19日 English.gov.cn:中華人民共和国国務院の公式英語電子通信プラットフォーム)
このガイドラインでは、2025年と2035年に広東省・深セン市を大湾区の中心としてさらに発展させると書かれています。現在、深セン市はITや金融だけではなく、観光や健康産業など幅広い分野で発展しています。
要するに、中国の大都市の中でも「社会主義のモデル都市」として、中国側の新世界秩序(New World Order)の代表的な大都市にするという構想があるということです。
また、深セン市に住む市民の高い生活水準が、中国的な経済発展の水準を示すモデルにするというわけです。これによって、深セン市が中国の社会主義(新世界秩序)の成功例として、世界に向かってアナウンスされていきます。
このガイドラインで明らかなのは、2035年に香港も「大湾区」の一部として吸収されてしまうということです。現在のところ、深セン市は香港と同様に「特別行政区」になると規定されていますが、将来的に香港に適用されているような「一国二制度」が維持されるのかどうかはわかりません。
いずれにしても、中国では2035年まで国を挙げて大規模な計画が着々と実行されていることがわかりました。中国はこの計画の実現に向けて、着実に歩を進めているように見えます。そして、このことは日本にとっても大きなプレッシャーになっていきます。
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