シリア暫定首相に反体制派のバシル氏、政権移譲へ旧政権と協議開始
 (出典:2024年12月11日 Reuters)
12月8日、13年も内戦が続いていたシリアでは突然、アサド大統領がロシアに亡命したことであっけなくアサド政権が崩壊しました。
そして、イスラム原理主義の「シリア解放機構(HTS)」の指導者で、テロ組織のアルカイダ出身のアル・ジャウラニという人物が、首都ダマスカスを制圧して大勢の人々を前で勝利宣言を行ったとのことです。
次の政権に権力が移譲される2025年3月まで、HTS傘下のモハメド・アル・バシル首相が暫定首相に任命されました。
HTSは、政権移譲がスムーズに実施されるようシリア国民に求めていますが、アサド政権時のアル・ジャラリ首相も無駄な抵抗をしないため、今のところ大きな混乱は起きていないようです。また、ヨーロッパに避難していた多くのシリア人たちも帰国する動きが広がっています。
しかし、HTSはアメリカでテロ組織に指定されており、イスラエルもダマスカス郊外を攻撃していることから、このまま平和的に政権が移譲するかどうかは不透明です。そもそも、ジャウラニはシリア人ではなく、サウジアラビア人のイスラム原理主義者です。
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 (出典:2024年12月15日 時事通信)
具体的には、シリアのアルカイダ(IS)組織「アルヌスラ戦線(ANF)」のリーダーであり、シリア内戦時には複数のテロ攻撃を実行し、多数の民間人を殺害している、と西側メディアでは紹介されています。
一時期、アメリカ国務省はジャウラニの情報提供に最高1000万ドルの報酬を出していたこともあり、テロリスト認定されていたわけです。しかし、今はイスラム原理主義者ではなく、政治指導者としてシリアを解放したとされています。
実際に、HTSのメンバーの多くはサウジアラビアやイエメン、アフガニスタン、アゼルバイジャン、タジキスタン、アルバニア、ウズベキスタンなどの出身者が多く、シリア人がいないのが特徴です。さらに、HTSを軍事訓練したのはウクライナ軍の特殊部隊であると言われています。
つまり、アメリカの諜報機関CIAが資金を提供していることは間違いなく、バイデン政権とイスラエルのネタニヤフ政権が協力し、イランとの戦争に有利な状況をつくった可能性が高いと考えられます。
興味深いのは、アサド政権崩壊にロシアやトルコ、イランが関与していたという情報もあり、このシリアの新政権が第三次世界大戦に導くきっかけになるかもしれないことです。結局、2015年からアサド政権を守ってきたロシアは、あっけなくイスラム原理主義勢力に主導権を奪われてしまいました。
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 (出典:2024年12月17日 毎日新聞)
一方、トルコと国境を接するシリア北部には、トルコに敵対しているクルド人が油田地帯を占拠しており、CIAの資金源になっていると言われてきました。トルコ政府はクルド人を警戒しており、入国させないようにしています。
ただし、トルコ国内には約300万人ものシリア人難民が避難しているため、これを機に帰還させたいと考えています。他方、首都ダマスカスなどシリア南部はイスラエルと国境を接しており、ミサイル攻撃を受け続けています。
1967年に起きた第3次中東戦争で、イスラエルはシリア南部のゴラン高原の一部を占領しましたが、その近くでイランはレバノンの武装組織「ヒズボラ」に武器や弾薬を輸送する補給ルートがあり、最近はそのルートが遮断されたと報道されています。
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 (出典:2024年12月7日 JB press)
今後、シリアに軍事介入していたロシアやイラン、そしてトルコはアサド政権に代わってHTSが政権を握ることに合意し、事実上、軍事的解決を断念したことになります。しかし、13年も内戦が続いたことで世界で最も貧しい国にまで経済的に衰退してしまいました。
シリアは、2011年に内戦が始まるまでは中東諸国では政治的にも安定し、経済的に発展しており、生活水準も高いという印象がありました。その後、国内にISやアルカイダなどのイスラム原理主義組織が入り込み、シリアは完全に破壊されたわけです。
また、シリア政府とシリア軍は腐敗しており、一部の政治家と軍関係者が物資や武器などを横流ししたり、兵士が逃亡するなどで軍は機能不全に陥っていたとされています。ロシアからのサポートはありましたが、アサド政権は改革に消極的であったことが崩壊の原因です。
結局、アサド大統領がシリア軍の現状を把握していなかったことで、軍や警察など治安部隊が暴走したと考えるのが打倒だと思います。不人気のアサド政権が崩壊するのは時間の問題であり、当然の結果になったということです。
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