今、「インフレ」という言葉が注目されつつありますが、経済の仕組みについて詳しい方とさほど詳しくない方とでは、その受け取り方が異なっているのは明らかです。
例えば、マクドナルドで600円のビッグマック・セットが690円に値上げされていれば、「インフレになった」と普通は思うはずです。しかし、経済について詳しい方は、差額である90円分の通貨の価値がハンバーガーに対して下がったと感じるわけです。
つまり「インフレ」とは、日銀がさらに円を印刷すること、通貨の供給量が増えることであると理解していると考えられます。
ここ50年ほどは日本だけではなく、世界中の政治家たちは通貨を大量に印刷し、発行することによって国政選挙で選ばれてきました。表向きは、政治家の政策が成功し、一般庶民の給料が増えたように見られています。
実際に、政治家たちは赤字国債を発行し、国民が喜びそうな巨額の財政政策を行ったことで新幹線開通や高速道路の延長などのインフラ整備がされています。しかし、ほとんどの国民は借金を背負わされていることに関心を持っていません。
一方、1970年以前の金本位制の時代には、現在の様な大量の紙幣を発行し、見かけ上の賃金(名目賃金)を上げることはできませんでした。金本位制では、紙幣は金(ゴールド)と交換可能な兌換紙幣であったことから、増やし過ぎると国庫の金(ゴールド)が枯渇し、通貨不安を引き起こしかねかったからです。
ところが、アメリカは1971年のニクソンショックを機に金本位制を終わらせ、原則的に米ドルを無制限に発行できるようにしてしまいました。この時以来、米ドルは金と交換できない(不換紙幣)非兌換紙幣となり、世界中の国が価値の裏付けを持たない米ドル紙幣を準備通貨として採用してしまいました。
こうして、人類が今まで体験したことがない大規模な金融危機を何度も経験することになってしまったわけです。例えば、1987年、1990年、2001年、2008年に起きたようなバブル崩壊が計画的に仕掛けられましたが、そのたびに世界中の人々の富が吸い上げられてきました。
しかし、今回の規模は誰も想像できないほどスケールが大きく、何も準備しなければ私たち個人や会社の富はすべて根こそぎ奪われていってしまうものと考えられます。
繰り返しですが、多くの方はモノやサービスの値段が日常的に使っている通貨に対して上がった時、「物価が高くなった」と認識し、「インフレ」を実感します。ところが、すでにインフレになっているのにかかわらず、モノやサービスの値段が通貨に対して上がっていないので、それを実感できない場合があります。
それでも、敏感な消費者は毎月のように地方から宅配便で届けてもらっている新鮮野菜パックの中の野菜の量が微妙に減らされていたり、同梱されている案内パンフレットの印刷が陳腐になっているのを感じているようです。
また、その通販会社の顧客窓口となっているオペレーターの人数が減らされたために、「問い合わせの電話をかけてもなかなか出てくれない」といったことが起きると、「サービスや品質に手を抜いている」と感じ始め、以前より劣ったモノやサービスを同じ値段で買わされていることに不満を覚えるようになるわけです。
これが、すでにデフレではなく、隠れたインフレであることの証拠ということです。以前より劣ったモノやサービスを買う際、以前と同じ量の通貨を支払っているのですから、実質的には通貨の価値が減ったということになります。
2014年4月に、安倍政権が消費税を5%から8%に引き上げた時、一部のスーパーと食品会社が取った方法として、中小スーパーは消費増税分の3%を価格に反映させ、消費者に負担させると他の資本力のある大手スーパーに価格競争で負けてしまうので、食品会社に一回り小さなパッケージを開発させました。
結果、外回りのパッケージには変化がないため、内容量が微妙に減らされていても消費者は気がつかなかったわけです。しかし、本来であれば、内容量が減らされた分だけもっと値段が安くならなければならないはずのモノを高く買わされているのですから、もはや「インフレ」と言うしかありません。
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