今回のメインテーマは、北朝鮮に埋蔵されている希少金属のレアアースを巡る情勢です。これはとても重要で、トランプ政権の北朝鮮に対する融和的な姿勢の最も重要な背景である可能性があるというわけです。
トランプ政権は、アメリカの要求する即時の非核化とは違う段階的な非核化で合意した中国と北朝鮮に強い不快感を示し、経済制裁を継続すると公表しました。しかし、米韓合同軍事演習の無期限の停止や非核化に期限を設けないことなど、北朝鮮の要求を基本的に容認する方向に動いています。
一方、日本のマスメディアでは、あれほど強硬であったトランプ政権が、なぜここまで北朝鮮に対して妥協的になったのか理解できないとするような報道が目立っているように思います。
私は2017年1月のトランプ政権誕生当初から、トランプ政権というのは、権力をアメリカ国民の手に取り戻すアメリカ・ファーストの革命政権と思っていました。しかし、2018年に入ると、軍産複合体やネオコン(ディープ・ステート)に吸収され、その利害を代表する政権であると断定しました。
そうしたトランプ政権の一貫した外交政策はこれまでと同じ覇権国家であり、今実施している関税を上げるような保護貿易的な政策も、軍事産業の基盤である製造業を国内に引き戻し、覇権を強化する目的があると考えています。
そしてそのような覇権主義を目標として、将来的にも在日米軍駐留の可能性を展望しつつ、覇権が拡大する中国を牽制する手段として、北朝鮮をアメリカ側へ引き寄せる判断をしたと見てきました。
実際に、覇権主義を目標にしたトランプ政権が北朝鮮に接近し、シンガポールでの米朝首脳会談でも妥協的な姿勢を示していることの背景には、比較的最近、北朝鮮で発見された世界最大のレアアースの鉱床の存在がある可能性があります。
ちなみに、レアアースとは希土類元素とも呼ばれており、31鉱種あるレアメタルの中の1鉱種で、スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素の計17元素の総称です。現在は世界市場の95%を中国が握っており、世界的な供給を独占する位置にあります。埋蔵量は2,000万トンとも言われています。
最近発見された北朝鮮の鉱床は、首都ピョンヤンから北西へ200キロほどの地点にあります。世界最大の埋蔵量のこの鉱床が開発されると、レアアースの世界的な供給は劇的に変化することは間違いないとも言われているようです。
これだけ見ると、レアアースは大きな利益の源泉となる希少資源の獲得を巡り、アメリカと中国が北朝鮮の支配を争っているように見えますがそうではなく、事情はこれよりもはるかに深刻になっています。なぜなら、高度なIT機器に依存した現代のハイテク兵器の機能は、実質的にレアアースに依存しているからです。
例えば、バージニア級潜水艦では一隻に4100キロ、イージス巡洋艦一隻で2300キロ、そしてF-35ライトニング戦闘機では一機あたり400キロもの大量のレアアースが使われています。
具体的なレアアースの使い道として、ミサイルなどの誘導とコントロールのシステムや迎撃システムと電子攻撃兵器があります。また、電気モーターやレーザーのトラッキングシステム、通信システム、そして最先端のジェットエンジンなどに多用されています。
こうした最新軍事テクノロジーは、もはやレアアースなしでは機能できなくなっており、その意味でレアアースはIT機器に依存する現代の兵器システムにとってなくてはならないものにまで認知されているというわけです。
さらに、電気モーターのようにEV(電気自動車)の機関部品の最も重要な一部にもなっているレアアースもあるため、EVシフトの進展にはレアアースは不可欠です。
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