アメリカでは国外に5万ドル以上の金融資産を持つ者は毎年、IRSに届け出ないといけないFATCA法があります。一方、日本では5000万円超の海外資産(金融資産以外のものを含む)を持つ者は毎年、税務署にその財産の明細を届け出なければならなくなりました。
いわゆる国外財産調書制度ですが、開始初年度はペナルティーがありませんでした。しかし、現在の確定申告からはペナルティーが発生するので、確定申告時期には国外財産調書が全国で提出されます。
それによると、2015年の提出者は前年比47%増の8184人で、その資産の総額は3兆1150億円で1人あたりで同23%増えています。財産の種類別では有価証券が1兆6845億円で全体の54.1%を占めています。
次いで預貯金が5401億円で17.3%、そして不動産が2841億円で9.1%となり、調書の提出者は東京、大阪、名古屋の3国税局で全体の9割を超えています。つまり日本の資産家のほとんどが、この3地域にいるということです。故意の不提出や虚偽記載は最高で1年以下の懲役刑や50万円以下の罰金が課せられます。
この提出者等に国税庁は「全ての者が提出したとは考えていない」とコメントしています。たぶん提出者は、その3倍の2、3万人はあると思っていたでしょう。実感として5万人はいるはずです。これは国外送金が200万円超をチェックしだした8年位前から想像しても、もっとあるはずなのです。
日本の富裕層に対しての課税漏れがないかどうかの制度や仕組みを今、国税庁が順次構築しています。しかし日本の富裕層は日本政府と日本の金融機関を信用していません。あらゆる手段で資産を海外に移しているというわけです。このキャピタルフライトは今後も、もっとエスカレートするでしょう。ただし、大リーガーやヨーロッパで活躍しているサッカー選手はこの制度に無関心です。
アメリカのFATCAでは国外の預金の申告漏れに対しては厳しくペナルティーを課しています。例えば1億円の預金を隠ぺいしたとすると、1億円以上のペナルティーを課される場合があります。一方、日本では、1億円の預金を国外財産調書に記載しなかったとして考えると、仮に年2%の預金利息があれば、200万円の利子収入の申告漏れとされます。
200万円の利子で20%の所得税だとすると40万円です。これに対し5%の加算税がつくことになるので、国外財産調書に記載しなかった1億円の預金につき、そのペナルティーはたったの2万円(40万円×5%)ということになるのです。不動産など収益を生み出さない資産の申告漏れがあったとしても、追徴課税はゼロなのです。
私も毎年FATCAに悩まされていますが、アメリカ居住者で、日本で所得のある日系人は日本の確定申告を終えてから渡米し、アメリカのCPAに対し日本の財産状況を説明しなければならなくなりました。CPAは申告代理人であるので申告に対して責任があるのです。
アメリカの納税者もCPAも怯えています。たった5万ドル(600万円)の預金の申告漏れで、それ以上のペナルティーを払わされるからです。日本では海外財産から生じる所得の所得税の5%しかペナルティーがありません。
何億、何十億、何百億円の財産を保有している人にとって、このような僅かなペナルティーを恐れて、海外を活用した相続税や所得税対策のプランを躊躇する人は少ないのです。
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