今後、市場がAI(人工知能)の助けを借りて人間から決定権を奪うケースとして、株式市場や仮想通貨市場、そして労働市場ではすでにその例をはっきりと見ています。
特に、アメリカの金融市場のトレーダーたちは自分の経験とスキルによって成果報酬を得ようとするのではなく、より的確で速い決断を下し、トレードを実行できる高速アルゴリズムの開発に関心が移っているようです。
これはウォール街に限った話ではなく、日本の経団連加盟企業も高速アルゴリズムのターゲットになっています。AIは日本の大企業の経営幹部の発言を拾い集めており、彼らが一言でも株価を下げる不用意なコメントを発すれば、その瞬間に、その企業の株式が自動的に売られるというわけです。
つまり、機械に支配された市場は、もはや大企業の経営者に経営手腕を求めていないということになります。より大きな資本でAIを開発できた者だけが市場の覇者となるというわけです。簡単に言えば、人間不要の世界が進みつつあります。
現在、ニューヨークの世界的な金融センターであるウォール街のヘッジファンドのほとんどが、百戦錬磨の人間のトレーダーから高速アルゴリズムを備えたAI(人工知能)トレーダーに取って代わられているような現象が、労働市場全般で起きていると報道されています。
実際、AIによってウォール街のエリートたちは職を失っているわけですが、しかし日本の企業では「特定の専門的なスキルを持たない中高年の中間管理職サラリーマンは、本当にダメな人材なのか?それは違うはず」と、大企業の中間管理職と中小企業のそれとを比較して、まだまだ使えると叱咤激励しているかのように見えます。
労働市場の激変は大企業だけでなく中小企業などすべての個人に影響を与えていますが、今回の大変革はアルゴリズムの高度化によってもたらされるものであって、労働市場だけ避けて通らないはずがありません。
事実、世界中の企業で人員削減は着々と進められているわけですが、これは日本でも起こっています。ただし、日本の場合は、リストラではなく、新規採用を控え他業種へのスキルの移動や交換といった形で進めらています。やがて、これは全ての企業に波及していくと思われます。
そして、人々がその深刻さに気づく前に、こうした現象が次々と起こってくると、それまで混沌としていた議論は楽観主義者と悲観主義者の2つに分かれています。楽観主義者は、「労働市場は一旦リセットされ、新たなAI(人工知能)の導入によって職を失う労働者が増え、その痛みを乗り越えさえすれば再び繁栄の時代を築こうという人材が育ってくるはず」と考えているようです。
一方、悲観主義者は、「職場にAI導入が進むにつれ、技術的な失業者が徐々に増えることから最終的には、社会的・政治的な崩壊が起こる」と終末論的に考えています。しかし、デフォルト(国家債務不履行)は通過点である以上、結局は両者とも同じような結論になっているわけです。
両者に共通しているのは、人間の欲望は無限であることから、労働の代替であるAI技術は市場を破壊したとしても、次から次へと新しい市場を創出させるという創造的破壊に立脚しているということです。
日本のように世界で最も早い段階での少子高齢化は、低欲望化の社会にシフトしようとしていることが明らかになっています。事実、若者はシェアハウスやカーシェアリングなどを活用することで、身の丈に合った幸福感に安住しようとしているわけです。
これが進んでいくと、経済そのものが縮小から消滅に向かって進んでいくことになり、極端に言えば、市場が次々と消えていくことによって共産主義が台頭してくるようになります。ベーシック・インカムは、低欲望化社会のセーフティーネットとして用意されており、それは必ず政府への一層の依存度を高めることになります。
これによって、さらに人々は無気力し、99%の人々が持っている成功するチャンスを完全に奪うことになっていくものと思われます。そもそも私が徹底的にベーシック・インカムに反対するのは、市場原理が機能せず、政府が用意した官製相場を無表情のままウロウロするだけの消費者の顔を見たくないからです。
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