今回のテーマは、世界的な不況への突入についてです。米中貿易戦争の懸念があるにもかかわらず、新年を迎えてからは世界経済について楽観視する見方が強くなりつつあります。
米中貿易戦争を背景にしたアップルの業績不審などが原因で2018年後半は大きく落ち込んだ株式市場ですが、日経平均は景気判断の分かれ目となる2万円を軽々と越え、ダウ平均も2万4000ドル台を回復しています。
米中両国による次官級貿易協議も経済の先行きにちょっとした安心感を与える材料になっており、両国とも経済の鈍化と相場の大幅な下落は回避したいため、何らかの妥協案が出てくると期待されているわけです。
結局、アメリカの景気を牽引する設備投資や住宅着工件数、そして個人消費などを見ると上昇しており、アメリカ経済は確実に成長軌道上にあることが確認され、最新の雇用統計も上方修正されています。
このような状況の中、アメリカ経済がこれから不況に突入することは一般的には考えにくく、ブルームバーグやロイターなどマスメディアでも2019年は比較的に力強い経済成長が続くという報道が見受けられています。
ところが、マスメディアでは楽観的な見方があるものの、ノーベル賞受賞者などのアメリカの経済学者たちは2019年後半にも不況が始まるとの悲観的な予測をしているようです。
例えば、アメリカのもっとも権威あるアメリカ経済学会の年次総会では、その年の景気判断をインタビューすることが恒例となっている中で、クリスティン・ラガルド専務理事に次ぐIMF(国際通貨基金)のナンバー2であるデイビッド・リプトン筆頭副専務理事が発言したことが注目されています。
リプトン専務理事は、2019年には世界的な不況に突入する可能性があると発言し、欧米日の先進国の政府は、不況突入への準備をしていないと語っています。そして、すでに欧米日政府とその中央銀行は、金融政策と経済政策の手段をすでに使い尽くしてしまっているとも語りました。
さらに、世界的な不況に対処するための国際協調の体制の準備もされていないことから、2008年に発生したいわゆるリーマンショック(世界金融危機)の時と比べても状況が悪いため、米中は貿易戦争などをしている余裕などなく、すぐにでも不況の緩和策を国際協調で準備しなければならない段階にあると言いました。
2008年のリーマンショックから今年で10年が経ちましたが、当時は経済の落ち込みをくい止めるために各国はこれまで資本主義の歴史では経験したことがない徹底した量的金融緩和策を進めたのは記憶に新しいところです。
その方法として、中央銀行による不良債権や金融商品の買い取り、ゼロ金利政策、巨額の国債発行による公共投資などの政策を行いました。中でもアベノミクスはその典型であって、世界で唯一日本だけは未だにゼロ金利政策を行っています。
いずれにしても、こうした金融・経済政策によって新たな金融危機の発生は何とか回避できましたが、新たな経済危機が発生した時の対応手段がもはや存在しないということです。当然、アメリカの中央銀行(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は、債権の買い取り抑制や利上げなどを実施し、これまでの量的金融緩和策から次第に脱しつつあります。
ところが、米中貿易戦争の余波により世界的な不況が深刻化した時、リーマンショックを上回る金融緩和策を実施し、経済を下支えするための手段はもはや使い尽くされてしまい、危機には対応できなくなっているということです。
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