今回も語学と仕事の関係について書いていきたいと思いますが、社員の語学力向上に対して、会社がどのように対応していくべきか、です。
なぜ大企業の人事部の方々が私たちAtlasに社員への英語教育について相談してきたかと言えば、英語力が高いわけでもない日本生まれの一般的な自社の社員がAtlasに通いだして、どうやってTOEIC900点台を超えるに至ったかについて関心があったものと考えられます。
帰国子女や留学経験者でもない一般的な社員がそこまでたどり着いた事例はさほどないことからも、その成功例を自社に波及させたいというのも分からないわけではありません。
しかし、なぜ英語力が急激に向上したのかと聞かれたら、私たちは彼の努力が報われなかったら自分で会社を辞める覚悟であったことを正直に話すしかないわけです。そんなことをどこまで会員様の上司の方に向かって言っていいのかよく分からないでいました。
ところが、TOEIC900点越えを果たしたといっても、実際の彼の英会話能力というのは、ネイティブ同士の会話で何言っているのか全然分からないことの方が多い、ということも話してしまったわけです。
そもそも日本の会社では、全員が語学に堪能である必要などなく、たまたま語学が得意な方が一つのスキルとして維持していくことが大切であると思うわけです。
楽天やユニクロのように商社としての役割が強くなりつつある中、越境するようなグローバル企業ならば社員全員に英語力向上を強制することは意味があるかもしれません。しかし、日本市場しかない会社ならば設計や生産など、様々な役割を果たす人材が必要になります。
会社での仕事というのは様々な技能を持った人材が集まるプロジェクト・チームが組織として機能していれば成り立つわけで、プロジェクト・チームの誰かが語学ができる必要はありますが、チーム全員がそれをできる必要はないということです。
つまり語学というのは、プログラミングや設計、生産管理、財務管理、接客、企画などと同様に技能の中の一つにカウントされているだけのものでしかないわけです。私たちAtlasでは、会社が英語教育に対してそのように対応すればいいのかを一言で言うと、
①「社員に対して語学を教育するのではなく、努力しようとしている人材を支援すること」 ②「努力した人材を公正に評価すること」
以上の2つを行うだけであると考えています。
まずは、中途半端な会社内の語学研修プログラムを社員に提供するのではないということです。、結局、「会社の語学研修を受けているから英語のために努力している」という満足感と免罪符を社員に与えているにすぎないわけです。
しかし、特に必要に迫られてもいない状況である程度のレベルまで語学ができるようになるのであれば、レッスンを受けるだけではなく、コツコツと単語を覚えたり、リピーティングやシャドーイングを繰り返したりという努力を自発的に行わなければ英語が身に付くことはありません。
しかも、人によっては向き不向きがあり、アプローチ次第で効果的かどうかもは異なってきます。だからこそ、「自分にあった方法を考え、自分で努力するべき」とはっきり宣言する必要があるというわけです。
さらに、会社が行うべきことは語学に対する努力を支援し、その成果を公正に評価した上でキャリアプランに反映させていくことしかありません。支援という意味では、英会話スクールに通わせたり、自主的な語学留学で外国に行きたいという人材に対して休職扱いにするという手もあります。
ところが、一般的な会社の制度では、青年海外協力隊に行くための休職は認められていますが、語学留学は認められていません。語学留学は自発的に語学を習得したい人材への支援になり、中途半端な語学研修プログラムを社員に提供するより効果があると思います。
社内での公正な評価という意味では、海外研修や海外駐在・赴任などの機会を得るための語学力の線引きをある程度は明確化し、海外研修や海外駐在・赴任の対象者を選ぶにあたって語学はその中の一要素でしかないと考える必要がありそうです。
一方、「語学ができるのであれば海外研修に出す必要はない」という意見もありますが、ある程度は明確化した線引きをしなければ、日本で自分の時間を削ってまで努力する気になれない人材が増えるだけです。
語学力を日本にいながら高めるのならば、まずは本人が自発的に努力するしか方法はありません。語学への努力が給与などの形で即物的に還元されるわけでもない以上、せめて海外研修や海外赴任の機会を得るための最低限の語学力の線引きを行いましょう。
ただし、TOEICスコアでの線引きについてはあまり気が進みません。いずれにしても、社員自身が語学力をどのレベルまで達することを会社は求めているのか分かっていなければ、目的と目標が定まらなくなってしまうのは誰の目にも明らかです。
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