フランスだけではありませんが、ヨーロッパ各国ではこれまで手厚い社会保障と充実した保護政策を行い、こうした政策を維持するために国の借金(国債)が大幅に増大したわけです。
さらに、企業による労働者解雇の規制や週35時間という労働法の改正など、労働者保護を目的にした規制が多く、企業から見ると投資を困難にさせる要因になったことは明らかです。このため2008年のリーマンショック(世界金融危機)以降は、低い経済成長率と高い失業率が続いています。
フランスのマクロン政権は、こうした状況を打破しようと大胆な改革を打ち出し、企業の解雇手続きの簡素化や不当解雇補償額の上限設定などの労働市場改革を実施しました。さらに、法人税率の段階的な引き下げや金融資産において富裕税の廃止、投資の促進、デジタル経済化の推進などの改革を行ったわけです。
要するに、労働市場の大幅な規制緩和と企業や投資家への減税により、企業が投資しやすい環境の整備を行ったということです。当初は、こうした改革によって投資が促進され、企業活動が活性化すると経済も成長し、雇用も伸びると考えたものと思われます。
こうした改革は、2000年代前半の小泉政権による構造改革、さらに2010年代のドイツのメルケル政権など先進国の多くが実施し、経済成長を軌道に乗せることに成功しました。マクロン政権は、この成功例と同じことを行おうとしているわけです。
ところが、現在は構造改革が実施されるべきタイミングではなく、日本やドイツが実施したこのような改革は、自由な市場原理に基づくグローバル化優先での改革であったということです。10年前であればそれなりの支持も得られたとは思います。
しかし、現在は反グローバル主義、「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領が象徴するように、グローバル化による極端な経済格差の拡大と中間層の分解という現象に直面し、グローバル化の是正が最も重要な政治目標になっています。
そのような状況の中、経済格差の拡大と中間層の貧困化という現実が見えている改革を支持するフランス国民はいないのは当然のことです。むしろ、あまりに早急に断行された改革が引き起こした問題のほうが目立ち、抗議運動につながったと思われます。
実際に、今回の黄色いベスト運動と暴徒化を主導した勢力の目的が、もしアメリカの支援を受けた組織であるとすれば、その目的はマクロン政権の弱体化であると考えられます。なぜなら、ルノー=日産のカルロス・ゴーン元会長を逮捕したのは東京地検特捜部であることから、その背景にはアメリカがいるからです。
マクロン大統領は、反グローバルの保護主義を推進し自由貿易を拒否するトランプ政権に対して批判的なリーダーでもあります。ヨーロッパ各国が一体となって防衛にあたるため、NATO軍ではなく、ヨーロッパ独自の「欧州軍」を創設する必要性を強調しています。
一方、トランプ大統領は「欧州軍」の創設について「アメリカを侮辱するもの」とツイッターに投稿しています。これは、安全保障政策を巡るアメリカとフランスの亀裂が鮮明になっていることの現れです。
他方、ドイツのメルケル首相は「欧州軍」の創設には賛成しており、トランプ大統領の批判を受けたフランスのマクロン大統領の構想に対する支持を表明しています。フランス、ドイツともアメリカから距離を取る姿勢を明確にし、アメリカを主体にした「NATO軍」に代る「欧州軍」の創設を主張し、脱アメリカを表明しているということです。
先頃起こったルノーと日産のカルロス・ゴーン元会長の逮捕は、フランスを代表する国営企業のルノーを弱体化する戦略である可能性が高く、黄色いベスト運動の拡大と暴徒化にもアメリカの関与があるものと考えられます。
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