今回のテーマは、世界が全体的に緊張緩和に向かっている可能性についてです。6月、7月の世界情勢を振り返ってみると、緊張強化へと向かう動きと緩和の流れが交差しながら進んでいるような複雑な情勢になっており、先を見通すことが難しくなりつつあります。
最近、北朝鮮が新たな弾道ミサイルを開発している可能性が高いと報道されており、6月の米朝首脳会談でアメリカが提案したとされる非核化の方向が頓挫しかねない状況になっています。北朝鮮がアメリカ本土に到達可能な大陸間弾道ミサイルをが作った平壌近郊の研究施設ではまだ活動が続いているようです。
しかし、韓国は北朝鮮との緊張緩和が半ば実現しつつあるとの認識から、韓国軍の兵力を2022年まで10分の1にまで削減すると発表しました。また、南北軍事会談を軍事境界線がある板門店の平和の家で開き、非武装地帯の平和地帯化など首脳会談で発表した板門店宣言に盛り込んだ軍事的緊張の緩和に向けた動きを加速させています。
さらに、日本でも北朝鮮の脅威が低くなっているとし、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備え、全国各地の陸上自衛隊駐屯地に展開していた航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット部隊の撤収を決定しました。
他方、北朝鮮はアメリカが平和条約締結の条件としている完全な非核化を短期で実施することに強く反発しており、平和条約締結後の長期的な非核化を要求しています。11月に実施予定の中間議会選挙後、アメリカがこれを受け入れるかどうかが焦点になっています。
トランプ政権内には、ジョン・ボルトンを始めとした強硬派がおり、完全非核化の即時実行がなければ北朝鮮を攻撃すると主張しています。いずれにしても、トランプ大統領がいよいよ北朝鮮の姿勢にしびれを切らし、開戦という強硬的な姿勢に転換するという見方もできそうです。
しかし、韓国や日本の動きを見ると北朝鮮との和平に向けた動きは水面下で着実に進んでいるようにも見え、表面の荒波と水面下の潮流は矛盾した動きをしているのは明らかです。
一方、緊張と緩和が交差するこうした状況は中東のイランも同じであって、トランプ政権はイランとの核合意の離脱を表明してからイランに対する圧力を強めており、イラン産原油の全面的な禁輸を各国に強く働きかけています。
そして、トランプ政権は早ければ今月にもイラン国内の核関連施設の空爆に踏み切る見込みという報道がオーストラリアのマスメディアから報じられました。オーストラリアとイギリスの両政府は、情報提供で協力していることからこのような報道がされたものと考えられます。
しかし、イランは中部の砂漠を3方向の険しい山脈が取り囲む天然の要塞のような国であり、ここを空爆するためにはまずイラクとイランの国境地帯に基地を設置し、またホルムズ海峡に空母機動部隊を展開させ、そこから幾度もイラン国内の核関連施設を攻撃しなければなりません。
このような攻撃は、中東で最大の軍事力を持つ大国イランの強い反撃を誘発するため、戦争が泥沼化する可能性があるといいます。攻撃の開始を示唆する情報が出回る中、トランプ大統領はイランのロウハニ大統領とは前提条件なしで話し合う用意があると表明しました。
また、マティス国防長官はアメリカはイランの体制転換を目指す計画はなく、オーストラリア政府高官が示唆したイラン攻撃の情報を嘘であるとして否定しました。さらに、北朝鮮にしても和平に向けた動きが続いているものの、トランプ政権のいきなりの態度変更による攻撃の可能性はゼロではなく、これからどちらの方向に向かうのか、かなり見通しにくくなっています。
これと同じような矛盾した情勢はシリアでも見られており、ロシアの支援で内戦に勝利したアサド政権は、以前イスラエルに奪われたシリア南部、イスラエル北部の国境地帯にあるゴラン高原を奪取する動きを見せています。
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