今現在、シリアの内戦に乗じてイスラエルがゴラン高原の全面的な支配を強化しており、この地域で巨大な油田が発見されたこともこのような動きの背景になっているようです。一方のイスラエルは、ゴラン高原の併合を強行に進めており、その結果、これを認めないシリア政府軍との間で新たな戦闘が始まる可能性が高くなっています。
そのような状況の中、シリア政府軍はゴラン高原の兵力引き離し協定で定められた非武装地帯のシリア側の町クネイトラを占領しました。これまでIS(イスラム国)が支配していた町でしたが、シリア政府軍の支配地域になったというわけです。
この動きをイスラエルはゴラン高原全体をシリアが奪還する動きとして強く警戒しており、そして、クネイトラ周辺に展開しているシリア政府軍の空爆に踏み切っています。さらに、ISを支援し、シリア政府軍を攻撃させています。このような状況が続くと、シリアとイスラエルはゴラン高原の領有を巡る規模の大きい新たな戦争に突入する可能性も否定できなくなってくるものと考えられます。
しかし、これとはまったく異なる緊張緩和に向けての動きも加速しています。7月にヘルシンキで開催された米露首脳会談でプーチン大統領とトランプ大統領は、新たな戦争の勃発を回避するために、ゴラン高原を1972年の時点の状況に戻すことで合意しました。
実質的に、ゴラン高原からのイスラエル軍の一部撤退とこの地域の周辺に展開し、イスラエルを攻撃する機会を狙ってきたイラン軍の撤退を意味することから、もしこれが実現されるとシリアとイラン、そしてイスラエルとの間でゴラン高原を巡る妥協が成立する可能性が出てくるということです。
そして、それが将来的にイスラエルの存在を容認する包括的な妥協が成立するかもしれません。そのような状況になれば、中東情勢は一気に緊張緩和へと向かうことになります。
そのような状況の中、ロシアが水面下でイランとイスラエルの説得を始めているとの報道がされています。ロシアはゴラン高原のあるシリア南部にはイラン軍はいないとしながらも、イランがこの地域に対して影響力を行使し、イスラエルの攻撃を後押ししないようにイランのロウハニ政権の説得を試みているところです。
つまり、ロシアと共に大規模な戦争の開始を一緒に回避しようというわけです。さらにこの動きを受け、ロシアとイラン、そしてトルコの3ヵ国首脳会談が開催される予定になっています。当然、これもロシアの仲介の結果であって、この3ヵ国首脳会談によってゴラン高原とシリアの和平に関する合意がされる可能性もあります。
一方、このような動きに対し、イスラエルの存在の確保を重視するトランプ政権は、ロシアの動きに賛同しながらも様子を見ています。ロシアはゴラン高原の問題が解決し、イスラエルの安全保障が保証されれば、シリア南部に一部展開している米軍の撤退も視野に入れ、トランプ政権と水面下で交渉をしている可能性も指摘されています。
緊張と緩和が同時平行で進んでいる現在の状況とは、北朝鮮とイラン情勢、そしてアメリカとロシアの対立にしてもこれまでの緊張と衝突の前提となっている敵対関係の枠組みに次第にほころびが生じることで情勢が流動化し、ちょっとしたきっかけでも緊張緩和の方向に一気に進む可能性が出ていることです。
6月に電撃的に行われた米朝首脳会談、そして7月に通訳だけの同席で行われた米露首脳会談などはその良い例ではありますが、これで世界的な緊張緩和の動きが決まったわけではありません。しかし、これまでの歴史的な経緯で固着化した敵対関係が急速に流動化しつつあるとも考えられるわけです。
しかし、たとえ緊張緩和に向かったとしても、この動きはもっと大きなシナリオのほんの小さな部分であって、最終的なシナリオが必ずあるということです。それは一体誰が立案したシナリオなのか、そしてこのシナリオの実現には、どのような現実が待っているのでしょうか?
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