「ニューヨークタイムス」が報道した記事は、ブルームバーグのような激しい口調ではないものの、日本は戦後の自由貿易体制のルールに違反しているとして、日本の動きを批判しています。
「日本は安全保障を自由貿易の輸出規制の引き合いに出す、聞き覚えがある?」
安倍首相は、日本で開催されたG20大阪サミット会議で、「グローバルな自由貿易は世界の繁栄と平和の基礎だ」と強く擁護しています。
ところが、言っていることとは逆に、その2日後には韓国のIT産業を狙い撃ちにした日本製化学薬品の輸出規制で、自由貿易に打撃を与えています。その理由としたのは、アメリカやロシアが口実として使う、漠然としている安全保障上の考慮からです。
「自由貿易体制」という言葉は、安全保障などのはっきりとしない口実では各国間の争いがコントロールできなくなる可能性があり、各国の指導者はこれまでこの言葉を使うことを避けてきたように思います。
もしこのような口実が10か国以上で使われるようになれば、自由貿易体制という概念そのものが消滅することになるかもしれません。根本的に破壊されるかもしれない。日本の当局は、韓国は軍事物資として潜在的に使用可能な戦略物資である化学薬品を韓国の企業が適切に管理できなかったとしているが、具体的な企業名を明らかにしていません。
当然、韓国政府はこれが戦前の徴用工問題に対する報復として見ており、安倍首相はトランプ大統領から同じことを行うように命令されたものと見えいるかもしれません。実際に、間奥を脅すために関係のない問題を持ち出す行為であり、歴史問題に対する日本の抗議には合理的な面もありますが、貿易問題にするべきではないと思います。
1930年代の世界大恐慌や第2次世界大戦時の保護貿易を反省し、戦後、世界経済は自由貿易体制になりました。この体制のルールには、安全保障という例外規定が始めからあったものの、どの国もこれを保護貿易の口実として使うことは避けてきたわけです。なぜなら、自由貿易体制が損なわれる可能性があったからです。
しかし、トランプ政権は同盟国のEU(欧州連合)や日本の自動車産業の輸入規制に安全保障上の懸念を持ち出しており、不法移民の抑制を求めてメキシコにも高関税を課す構えを見せています。
また、ロシアはウクライナとの貿易を安全保障上の懸念を口実に規制し、昨年はサウジアラビアやUAEなどの中東諸国はカタールへの貿易規制の口実として安全保障上の懸念を使っています。
さらに、中国は30年以上も貿易を政治と同時に解釈してきました。特に、チベットやインドとの領土問題では安全保障上の懸念としてきたわけです。
一方、自由貿易体制の守護神であるはずの世界貿易機構(WTO)は、ロシアのウクライナに対する規制を支持したものの、安全保障上の懸念の内容の妥当性はアメリカだけが決定できるとした考え方を拒否しています。
アメリカのこうした前例がなかったのならば、日本は今回のような処置は適用しなかったと思われますが、日本は貿易を安全保障上の懸念としたことで、世界中にある問題をさらに大きくしただけです。
今回、韓国に対する日本の動きは、戦後の世界を支えていた自由貿易のルールを破るものだとする見方は海外メディアには多くみられているようです。
外交に特化した雑誌の「フォーリンポリシー」では、今回の問題の原因が戦前の戦争犯罪に無反省は安倍政権にあるとし、歴史問題として報道していることがわかります。
「日韓はなぜ貿易戦争をしているのか?公式には日本の安全保障上の懸念、非公式には戦前の醜い影」
この記事では、安倍政権が戦前の戦争犯罪という歴史問題に、自由貿易の原則に違反した輸出規制で対応したとして日本を痛烈に批判しています。こうした論調の記事が海外メディアでは多くなりつつあります。
結局、G20大阪サミット会議などで自由貿易を宣言していた日本が、自らの方針を裏切ったとして見られても仕方がないかもしれないわけです。
2020年東京オリンピック開催までちょうど1年になった8月、これから日本国内はオリンピック開催に沸くことになりそうです。その前にラグビーの自国ワールドカップ開催が予定されており、いよいよ日本国民が盛り上がっていくものと思われます。
しかし、この問題が早期に外交的に解決しない限り、この問題の中で日本は世界から完全に孤立していく可能性があります。
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