今回のテーマは、ロシアとアメリカの軍事力についてです。先月開催された米露首脳会談では両国がイスラエルの存在を認め、ゴラン高原を1974年時点での国境の状態に戻すとの合意がなされたことを書きました。
この合意は、ヒズボラなどイランの武装勢力がイスラエルと国境を接するゴラン高原周辺から撤退し、それと引き換えにイスラエルも1974年の時点まで撤兵するということを実質的に意味しているわけです。これはシリアに駐屯するイランとイスラエルとの全面衝突を回避するための落としどころということです。
早速、合意された方向の動きが出てきつつありますが、ロシアのラブロフ外相はイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相とエルサレムで会談しました。イスラエルのメディアによると、ロシアはシリア内戦を巡り、イスラエルの占領地ゴラン高原からシリア側に緩衝地帯を設け、アサド政権を支援するイランの部隊が立ち入らないようにすることを提案したとされています。
またイスラエル政府高官の話として、緩衝地帯を無力化する可能性があるため、イスラエル側は長距離ミサイルのシリアからの撤去などを要求したとしています。しかし、このような合意をロシアの同盟国であるイランが受け入れるかどうかは未知数であり、これからロシアはイランとイスラエル双方の説得を行うことになりそうです。
もしこの説得が成功するなら、今回もロシアの仲介でイランとイスラエルとの全面衝突が回避される結果となります。2015年にロシアはイスラム国(IS)壊滅のためにシリアに介入し、アサド政権を支えました。その結果、ISはシリアから追い出され、アサド政権の存続が決まっています。
このように、ロシアは中東の和平を握る仲介者としての立場を強めており、今回のイランとイスラエルの仲介に成功することになれば、中東でのロシアの威信はさらに高まることになります。中東和平の仲介者の役割を担うのは、もはやアメリカではなく、ロシアに完全に移動したというわけです。
こうした世界各国の仲介者としてのロシアの威信を支える基盤こそ、アメリカの水準を大きく上回るその軍事テクノロジーです。例えば、カスピ海のロシアミサイル巡洋艦からカリブレ巡航ミサイルがシリアにあったIS本拠地に発射されたことがありました。
この時、アメリカの空母セオドア・ルーズベルトの戦闘部隊がペルシャ湾に展開していましたが、発射直前に緊急退避したとされています。この後、ロシア自身が大西洋でロシアが責任のある地域と呼ぶ黒海からアメリカ海軍は完全に撤退させられ、実質的にロシアが支配しています。
これはロシアの軍事力によってアメリカが排除された象徴的な出来事になりました。アメリカ軍もロシアの優勢な軍事力を認めざるを得ない状況になっており、これが中東の仲介者として威信を高めているロシアの前提になっているということです。
このように、世界一と呼ぶに相応しいロシアの軍事力ですが、いつの間にかアメリカの軍事力を凌駕しています。具体的には、司令や通信、情報収集、偵察などの分野や、電子戦、新兵器のシステム、航空防衛システム、そしてアメリカ本土まで届く能力のある超高音速の巡航ミサイルといったものがあります。
これらの軍事兵器はアメリカも開発できていないものが多く、アメリカ軍はロシアを深刻な脅威として認識しています。ロシアの軍事力が優勢な理由として考えられるのは、ロシアが2700万人も犠牲になった第2次世界大戦時のトラウマからというものです。
公表されたもっとも最近の調査結果では、で兵士と市民を合わせて日本は15年に及ぶ太平洋戦争全体で犠牲者は300万人、ちなみに中国は2000万人ということからも、当時のソ連の犠牲者の数は群を抜いて高いことがわかります。
1942年に独ソ不可侵条約を一方的に破棄したナチスドイツはソビエトに進行し、ソビエト軍は準備不足で劣勢であったため、本格的な反撃を開始する2年後の1943年まで、多くの戦闘で敗北しました。その間、ナチスドイツに占領された地域では多くの村々が焼かれ、住民の多くが虐殺されたというわけです。
つまり、現在のロシアにとって第2次世界大戦とは、外部から侵攻してきた侵略者との戦いであったという教訓が刻み込まれています。ちなみに、日本で第2次世界大戦の悲惨さを記憶するトラウマというのは、空襲や原爆、食糧難などのイメージはNHKの連続テレビドラマや小説、映画に何度も繰り返し描かれています。
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