ロシア人と同様、日本国民も世代を越えて戦争体験を共有するトラウマになっていますが、これが安倍政権が強行採決しようとしている憲法9条の改正を困難にしているわけです。憲法改正を使命とし、5年以上と長期化している安倍政権でも憲法改正は困難であるということです。
結局、国民で共有されるトラウマというのはこれほど強いものであって、中国でも南京大虐殺がトラウマになっており、従軍慰安婦というトラウマを持つ韓国でも同じような戦争経験によるトラウマを持っていることがわかります。
一方、ロシアでは侵略や虐殺、餓死などのイメージが戦争経験のトラウマを象徴するイメージになっており、それは日本と同じようにあらゆるメディアで繰り返し報道され、世代を越えてほとんどの国民で共有されています。
特に、ロシアでは1991年のソビエト連邦崩壊から10年ほどの間に、国家が実質的に欧米の影響下にある新興財閥のユダヤ人集団オリガルヒによって経済的に侵略されたことがあり、国民の生活が極限まで困窮したことで第2次世界大戦で経験したトラウマはさらに強化されたと考えられます。
このような外国や外国人からの侵略の恐怖から構築されたのが現在のロシアの軍事システムであって、すべての戦争が国外で起こり、戦争を勝利に導くヒーローであるという自己イメージを今も堅持しているアメリカ人のメンタリティーとは根本的に異なっています。
アメリカの軍事システムは、基本的に資本主義の原則に基づいて活動する民間企業が担っているのに対し、ロシアは一切輸出入には依存せず、必要なものすべてが国内にある資源だけで足りる軍事システムが前提になっているわけです。
つまり、国内にある資源を掘削して精錬し、それを製品化し、それを原材料としながら自国だけの軍事テクノロジーで世界最高水準の兵器を製造するシステムということです。したがって、ロシアの軍事企業は民間企業のような体裁をもちながらも、実質的には国営企業となっています。
このようなシステムというのは、最終的には利益最大化の原則の基づいて投資行動を決める民間企業に依存しているアメリカの軍事企業やその基礎となっている製造業とは根本的に異なります。アメリカでは、特に製造業の拠点が労働力の安い中国に移転してしまい、軍事産業の基盤となる製造業が空洞化してしまっています。
これがアメリカの軍事産業に深刻な打撃を与えているわけですが、すべてを自国で行うロシアにはこうした問題はそもそもないことは明らかです。
結果として、現在のアメリカの軍事システムはイラク戦争時の1990年代に開発された兵器が主流であるのに対し、アメリカ企業のグローバル化によってアメリカの製造業が空洞化する中、これまでロシアは最先端の兵器システムを開発し続けていたということです。
当然、アメリカもロシアが軍事的に優勢になりつつあることは承知しており、トランプ政権が自由貿易の基本原則を捨てて、25%もの関税を導入してまで製造業の国内回帰を誘導している背景には、こうした深刻な事情があるわけです。
11月に実施予定のアメリカ議会中間選挙を睨んだトランプ大統領の支持率アップだけが目的ではないことがわかります。そして先月、米露首脳会談を開催し、トランプ政権はロシアとの関係改善を模索していますが、その背景にあるのはアメリカの軍事産業を再構築するための時間稼ぎであるとも考えられます。
しかし、トランプ政権のこうした努力はもう間に合わないことが確実視されており、今後は優勢な軍事力を背景に、ロシアは中東和平の仲介者としての威信はどんどん高まることになり、それが北朝鮮に対しても行われる可能性があるはずです。
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