9月14日、サウジアラビアにある石油施設と油田が何者かに攻撃されましたが、事件の全体像が見えてきました。
しかし、はっきりしないのは攻撃された側のサウジアラビアの動きです。なぜサウジアラビアは自国経済の中心産業である石油施設と油田の攻撃を許してしまっているのでしょうか?
サウジアラビアという国は、世界第4位の国防予算を投じています。地対空迎撃用のパトリオット・ミサイルや戦闘機、戦車、装甲車などアメリカ製の最先端兵器を配備しています。
一方、今回の攻撃に使われたドローンや巡航ミサイルはレーダーでは探知しにくく、サウジアラビアの持つ既存の兵器では撃退できなかったようです。
パトリオット・ミサイルは、大気圏外から侵入する弾道弾の撃退用ミサイルで、ドローンや巡航ミサイルの迎撃には対応できないとされています。それにしても、攻撃が仕掛けられようとしている際、事前になんの探知もできなかったことが気になります。
サウジアラビアは、同盟国であるアメリカの軍事用偵察衛星から最新の情報が入り、これらの衛星の監視対象には、イラクやシリアに展開するシーア派系武装民兵組織の軍事基地も入っています。
こうした基地に少しでも動きがある時は、米軍の情報がイスラエルとサウジアラビアにすぐに通報されるようになっているわけです。イスラエルはこの情報を活用しており、イラクやシリアのシーア派系武装民兵組織の基地を攻撃していることが明らかになっています。
したがって、今回の攻撃はサウジアラビアが事前に察知できていた可能性は高く、わざと攻撃を許してしまっているようにも見えます。それには、サウジアラビアの厳しい状況があるからです。
サウジアラビアは、独裁的なムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中心になって、「サウジビジョン2030」というプロジェクトを推進しています。
露呈したムハンマド皇太子の「やりたい放題」
これは、サウジアラビアの経済が原油依存を脱却するために、AI(人工知能)やブロックチェーン、医療技術などサウジアラビアがあらゆる分野の先端的テクノロジーの開発先センターとなることで、従来の石油依存の体制からの脱却を図ることを目的にした国家プロジェクトです。
実は、この「サウジビジョン2030」には全く進展がなく、計画倒れになる可能性さえあると言われています。その原因は、サウジアラビアの財政状況が悪化している中、アメリカで大量にシェールオイルが産出されているからです。
地下に埋まっているシェールオイルを掘削するためには、フラッキングという技術が必要ですが、コストは高く、1バーレル70ドルが採算ラインとされています。そのため、掘削コストの安いサウジアラビアの石油の競争相手とは見なされていなかったわけです。
ところが、シェールオイルのフラッキング技術の進歩により、近年は掘削コストが大幅に低下したため、シェールオイルはサウジアラビアの有力な競合相手になりつつあるようです。
2010年当時、サウジアラビアはアメリカのシェールオイル計画を潰すために原油の供給量を増やし、原油価格相場を安くするように操作していました。
しかし、これでシェールオイルが潰れないことが明らかになり、今度は供給量を減らして原油価格を高くするように市場を操作することで、安定した利益の確保に努めるようになりました。そうして「サウジビジョン2030」を始めるため、2013年頃から資金を確保するつもりでいたわけです。
サウジアラビア産原油の産出量は、2014年には日産8億バーレルでしたが、2016年には3億バーレルに減少し始め、現在も低迷が続いています。しかも、原油大国ロシアやOPEC(石油輸出国機構)との足並みがそろわず、サウジアラビアの戦略通りに減産は上手くいかなかったようです。
OPEC、サウジ供給不安でも増産慎重 価格維持狙う
そこで、次にサルマン王子が注目したのは、サウジアラビアの国営石油企業「サウジアラムコ」の株式上場(IPO)であったわけです。これによって得られる資金を「サウジビジョン2030」の開発計画に充当する計画でした。
世界最大の石油企業である「サウジアラムコ」の時アラムコ価総額は、2兆ドルとも言われており、数年前から株式上場の準備を続けていますが、未だに上場できていません。IPOが承認されるためには財務状況の透明性が要求されており、実質的にはサウド家の所有物である「サウジアラムコ」は不透明な部分が多いのは明らかです。
さらに、「サウジアラムコ」が株式上場で2兆ドルを確保するためには、1バーレル80ドル以上の原油価格でなければならず、現在の60ドル前後では時価総額も減少するの半分の1兆ドル程度しか調達できないはずです。
計画どおりに2兆ドルを確保するためには、1バーレル80ドルの価格水準がどうしても必要であり、サウジアラビアは事前に何者かが石油施設を攻撃することを知っており、あえて攻撃させた可能性が出てきました。
サウジアラビアは、株式上場を希望した価格水準で実現するため、原油価格を引き上げる必要性があったことから、今回の石油施設への攻撃のおかげで原油価格上昇の可能性に賭けたことになります。
当然、石油施設がドローンで攻撃されたことは、これらの施設が外部の攻撃に無防備であることを示しています。これは「サウジアラムコ」の安全性にとって脅威としてみなされるので、株式上場の審査にとってはマイナス要因となります。
今後、株式上場そのものが挫折すると思われますが、これで「サウジビジョン2030」を実現することは不可能となりました。このような状況を考えると、サルマン皇太子は、イラン強硬派とイエメンの反政府勢力であるフーシ派による攻撃をあえて容認した可能性もあります。
これは、イランとサウジアラビアという敵同士が、それぞれの目的を実現するために共謀したようにも見えますが、このように全ての出来事が矛盾なく説明できます。
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