結局、最高指導者バグダディが率いるテロ組織ISの正体は、アメリカ、サウジアラビア、トルコ、そしてイスラエルの諜報機関であるということです。
各国の利害は、見事にシリアのアサド政権の崩壊という点で一致しており、ISはアサド政権を打倒するためにこの4か国が利用した都合のよいツール組織であるというわけです。
しかし、国際社会のあまりに残虐なISに対する非難は強く、オバマ政権時代の2015年頃からアメリカは、有志連合を結成し、IS掃討作戦を行ってきました。ただ、アメリカなどの国々がIS掃討を真剣に行っていることを国際社会にアピールするためのもので、ISを完全に壊滅させることに狙いがあったわけではありません。
2016年11月にトランプ政権が誕生するまでは、アサド政権打倒というISの都合のよいツールとしての基本的な機能は温存されていました。
ISの本格的な弱体化は、2015年に始まったロシア軍の介入からです。多くの民間人の犠牲を出しながらも、ロシア軍はアサド政権軍を支援し、シリア国内のISが持つ拠点を壊滅させ、ISが散り散りになっていきました。
10月29日、トランプ大統領が「明日何かが起きる」とツイートしていたバグダディ殺害の意味が徐々に浮き彫りになってきているように思います。こ作戦は、米海軍特殊部隊が行ったものの、トルコやイラク、クルド人勢力の情報機関とロシアが協力しています。
アメリカ(軍産複合体)とトルコは、アサド政権を打倒するためにISを利用した国ですが、これにアサド政権を支持するロシアも協力しているということは、シリア内戦に関与した全ての国の間で何らかの合意が成立し、バグダディ率いるツールとしてのISが用済みとなったということを意味しています。
これまで、ISのテロを起こすためのツールとしての役割はアサド政権の打倒であったわけです。ところが、5か国の間でアサド政権存続の合意が成立し、この明らかになっていない合意とは、アサド政権によるシリアの統一を承認する内容である可能性があります。
当然、アサド政権の存続とシリアの統一はロシアの支援で実現することになりますが、ロシアとアサド政権はこれを実現するために、トルコやアメリカにある程度の譲歩をしたものと思われます。
トルコには、シリア北東部のクルド人排除と安全地帯の設置をしてもらい、アメリカにはシリア東部にある油田の権益を約束した可能性があります。トランプ政権が発表したシリア北東部からの米特殊部隊の撤退は、アメリカとロシア、トルコ、そしてアサド政権の合意のもとで、それぞれの国が合意で得られた内容を実現するためであったことになります。
このように、全てが事前に計画されていた可能性があるわけですが、米軍の撤退とトルコ軍のシリア侵攻、クルド人勢力との戦闘、ロシアによる調停、クルド人勢力の撤退と停戦、米軍のシリア東部油田地帯への派遣、そしてISのバグダディの殺害で終了したことになります。
これで、ついにアサド政権打倒のツールとしてのバグダディとISはお払い箱となり、次のフェーズに進んでいくことになります。残念なのは、犠牲になったのはクルド人勢力です。しかし、これからロシア主導でシリア内戦は終結し、アサド政権による国家の再統一が進むと思われます。
一方、IS戦闘員はシリア内に数千人も残っているので、各地で散発的にテロを引き起こすはずです。しかし、支援を完全に失ったISは勢力を縮小させ、壊滅の方向に向かうことになります。
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