トランプ大統領は、シンガポールで開催された北朝鮮の金正恩委員長との1回目の米朝首脳会談で、非核化を求めることに対して「ディール=Deal」という言葉をよく使っていました。
一般的には、首脳会談などの政治のシーンでは「ネゴシエーション=Negotiation」という言葉を使うことが多いわけですが、Negotiationとは日本語で「協定」「交渉」という意味があり、一見ほとんどDealと同じように感じます。
しかし、細かなニュアンスの違いがあるのは明らかで、トランプは豊富なビジネス経験を活かした政治的アピールとしてDealという言葉を使っています。その理由として、北朝鮮との間でビジネスを行おうと考えているからです。
ということは、米朝双方にとってメリットのあるいわゆる「Win-Win」の取り決めをするということであったわけです。つまり、完全な非核化を行うことを求めるアメリカと、非核化は段階的に行い、その段階に応じた見返りを求める北朝鮮の要求の落とし所を検討するということだと考えられます。
大事なことは、多くの日本人ビジネスマンに見られるように、「ディール=Deal」と「ネゴシエーション=Negotiation 」の違いがわかっている人はとても少ないということです。実際に、アメリカと北朝鮮のDealは成立しています。
今現在も、北朝鮮が核兵器を廃棄するかしないかのDealの中にいることは明らかです。しかし、Negotiationとしては2回目の米朝首脳会談では失敗し、物別れに終わっただけのことです。
Dealや Negotiation というのは、すでに日本語化しており、私たち日本人はカタカナ外来語として使っています。このカタカナで読むことが日本人の問題であり、この2つの意味が理解でえきない原因となっています。
Dealは、大きな枠組みでの取引や交渉、話し合いのことです。一方、Negotiationは折衝や談判、話し合いのことであると辞書には書いてあります。結局、辞書で調べても違いがないために区別ができないわけです。
ところが、私自身は「Dealは敵対せずに相手と話し合い、交渉することが決まる」という意味であると解釈しています。特に、大枠の交渉が成立するためのものです。そして、そこには信頼関係があり、逆に信頼関係がなければ交渉はおろか、取引などできません。
この大枠の取引の中で、値段を決め、お互いの取り分を決め、自分の利益を確保し、自分が譲歩し、相手の分け前を認め、時にはサービスをし、相手の取り分を多くするということもあります。つまり、これがNegotiationです。
このことからも、ベトナムで開催された2回目の米朝首脳会談というのは、あくまでもNegotiationであって、すでにDealは昨年6月12日の1回目に成立していました。そして、まだそのDealは壊れてはいないということです。
本来なら、2回目では北朝鮮が非核化する核施設の場所やその方法などが具体的に提示され、アメリカ側による具体的な経済制裁解除の時期やその方法などもはっきりと決めなければならなかったわけです。これがNegotiationです。
残念なことに、今回、このNegotiationはお互いに失敗に終わり、取引が成立とはなりませんでした。Negotiationは、お互いの条件を細かく折衝しながら取り決めるという意味があります。
だからこそ、信頼関係を結ぶことと、その内容を細かく決めることは異なるということです。いよいよ私たち日本人は、この違いをはっきりと知るタイミングにしているように思います。それには、やはり英語学習を始めるのが最も手っ取り早い方法であると思います。
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