2019年になってから発表された最近のシンクタンクによるレポート(英語のみ)ですが、実は安全保障上の大きな脅威として中国からロシアにターゲットが変更していることがわかりました。
当然、ロシアによるクリミア半島併合が行われた2014年以降、アメリカ政府に最も近いランド研究所のようなシンクタンクが出すレポートでは、ロシア脅威論と抑止論が基本的なスタンスとなりつつあります。
それには一貫して変化がなかったわけですが、2017年1月のトランプ政権発足後、アメリカの安全保障上の脅威として全面に出てきたのが中国であり、ロシアの脅威論は静まりかけていました。それが今年になると、この基調に変化が見られるようになり、中国以上に抑止し、徹底して排除する対象としてロシアが急速に浮上しつつあるということです。
ランド研究所は、第二次世界大戦後の米軍の戦略立案と研究を目的として設立した組織で、設立当初は航空機産業大手のダグラス社がスポンサードしていましたが、その後は分離して独立系シンクタンクとなりました。
そして、軍事関連の戦略研究から民生分野の公共政策や経済予測分析、そして様々なコンサルティングへと分野を拡げています。
しかし、現在でも国防総省(ペンタゴン)の最大のクライアントであり、研究の半数以上が安全保障関連に従事しています。軍事戦略の研究機関としての性格が強いシンクタンクですが、そのレポートは国防総省やホワイトハウスの外交政策に強い影響力を持っています。
実際に、ランド研究所からは何人もの研究員がホワイトハウスや国務省、国防総省の高官となっており、冷戦期と冷戦後のアメリカの軍事戦略を立案したアメリカで最も影響力のあるシンクタンクとされています。
そのランド研究所の最新レポートでは、「ロシアの脅威を抑止するためには軍事的に対抗するのは得策ではない」としています。現在のロシアの強みは軍事力と情報戦であることから、この分野でアメリカが対抗してしまうとアメリカも大きなコストの負担を覚悟しなければならないということです。
これを避けるために、「軍事的に対抗するのではなく、ロシアの財政を拡大させて経済的に破綻させる戦略が有効である」と言います。ロシアにコスト負担を強いるための方法として最も負担を強いることになるのが、ロシアが弱い経済分野なのは明らかです。
特に、ロシア経済の依存度が際立って高い原油や天然ガスなどのエネルギーの分野でロシアを締め上げるのが、アメリカの負担が小さい効果的な方法だということです。
そして、ロシアのエネルギー産業にとっての最大の市場はヨーロッパであることからも、アメリカがシェール・オイル/ガスなどをヨーロッパに輸出することで、ロシアの経済的弱体化を狙うと4月発行の最新レポートでは主張しています。
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