トランプ氏、対中包囲網一段と 貿易や監査も浮上
(出典:2020年8月11日 日本経済新聞)
トランプ大統領が、中国に対してどれほど激しい強行策に出ようとも、決して越えてはならない一線があります。それは、実体経済を回復させることです。
トランプ大統領の支持基盤には、アメリカ中東部の「ラスト・ベルト(旧工業地帯)」の他に、南西部の「バイブル・ベルト(聖書地帯)」と呼ばれるキリスト教福音派の支持者がおり、中西部には農業従事者の支持者がたくさんいます。
トランプ大統領は、すでに中東部に住む多くの支持層を失っているとしても、南西部と中西部の支持層だけは失うことはできないわけです。
「バイブル・ベルト」という地域は、宗教的な信念による支持層がほとんどで、実体経済の悪化で支持を失うことはほとんどありませんが、中西部の農業従事者にとって農産物が売れなくなれば死活問題になりかねません。
米中、15日に「第1段階合意」巡り貿易協議 米紙報道
(出典:2020年8月5日 日本経済新聞)
例えば、トランプ政権による中国への高関税の適用で始まった米中貿易戦争は、今年1月に貿易交渉の第一段階の合意で正式に文書に署名しました。合意内容は、中国がアメリカ製品の輸入を1.5倍に増やすことや知的財産権の保護などです。
また、トランプ政権は2月に制裁関税の一部を下げ、アメリカ産工業用品や天然ガス、農作物・畜産物の中国への輸出額は前年比1.5倍となる見込みです。特に重要なのは、農作物と畜産品です。
なぜかと言えば、トランプ大統領の最重要の支持基盤の一つが中西部であるからです。中国とのの合意が実現したことで、中西部に住む支持層の多くはトランプ大統領と共和党を強く支持することになりそうです。
米の6月輸出、過去最大の伸び率 14.5%増
(出典:2020年8月5日 日本経済新聞)
中西部の農業従事者たちは、トランプ政権による中国への強硬策が激しくなる中、1月の第一段階の合意を中国が守るのかどうか様子を見ています。それに対して、中国は農作物巣・畜産品の輸入を少しずつ増やしているものの、合意した目標額の輸入額には到達していません。
もし中国が合意を反故にした場合、中西部の農家にとって大きな問題となり、新型コロナウイルスの影響で実態経済が落ち込んだ上、合意まで撤回することになれば中西部の農業従事者にとっては死活問題となりかねません。
当然、有権者の不満はトランプ大統領と共和党に向かうことになり、11月3日のアメリカ大統領選挙で再選されない可能性が出てきます。それほど、第一段階の合意は守らなければならないということです。
金で縮小が解決されるか、駐留経費負担交渉後の在韓米軍
(出典:2020年8月3日 東亞日報)
さらに、日本のマスメディアはほとんど報道していませんが、在韓米軍の削減計画が進み始めています。ウォールストリート・ジャーナルは、米軍の世界展開の必要性を疑問視しており、国防総省がホワイトハウスに対し、韓国に駐留する兵力を縮小する選択肢を提示したと報じています。
トランプ政権は、ドイツが十分な国防費を支出していないとして、在独米軍の規模を縮小させました。実際に、韓国政府に対してこれまでの5倍の駐留経費を要求していますが、韓国政府は強く反発しています。
今回、在韓米軍の規模縮小の提案は、韓国に駐留経費を支払わさせるための圧力だと考えられます。同時に、これと同じようにトランプ政権は、在日米軍の駐留経費についても負担の大幅な増額を求めるようになりました。
在日米軍駐留経費の協議着手 年内合意目指す 米は「思いやり予算」増額要求か
(出典:2020年8月3日 毎日新聞)
その増額分は85億ドル(約8600億円)にもなり、これまでの約4倍にも増えているわけです。日本政府との交渉は年内にも始まると見られていますが、安倍政権が続く限りは満額を支払うことになりそうです。
こうした状況の中、アメリカは中国と軍事衝突を予感させる水準まで危機感を高めたことで、韓国や日本はトランプ大統領から米軍の駐留経費を増額されたと考えられます。つまり、これほど危機が高まっているのだから、「駐留経費を払うのは当然」という論理です。
そして、もし日本と韓国がトランプ大統領の要求を受け入れ、巨額の駐留経費を支払うことに同意することになれば、トランプ大統領は自分の大きな成果として有権者に訴え、支持率の上昇を狙うことができるということです。
|