中国カンシノ、コロナワクチン「ヒトへの効果確認」
(出典:2020年5月25日 日本経済新聞)
今、ワクチン開発の最終ステージである第3段階を実施できる状況にあるのは中国だけであるというのが現状です。
第3段階とは、多数の感染者で有効性と安全性を確認し、被験者をワクチンを投与したものとそうではないグループに分け、治癒率を比較することを言います。
しかし、ワクチンが開発されたしても、それを世界的に流通させるためのサプライチェーン(供給網)がない限り、ワクチン開発は成功したとは言えません。なぜかと言えば、最終的には数億人分のワクチンが必要になるからです。
まず、第3段階の臨床試験で効果が確認されたワクチンは、WHO(世界保健機関)の審査を通過し、公式の認可を得なければなりません。そこで認可されると、今度はワクチンの世界的な流通に特化した「Gaviアライアンス」という非営利組織が世界への流通を担うことになります。
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(出典:2020年4月30日 Sputnik)
この「Gaviアライアンス」という組織は、マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツの「ビル&ミリンダゲイツ財団」の支援によって運営されている組織です。中国は、2014年からインフルエンザのためのワクチン約3,000万人分を「Gavi」を通してアフリカや東南アジアなどの発展途上国に流通させています。
また、中国国内にも約7,000万人分のワクチンを流通させているようです。それらは全て中国製であり、新型コロナウイルス用にも十分な生産能力があることが証明されています。
「H7N9型」の鳥インフルエンザが流行した際、中国はすぐにワクチンの開発を成功させ、蔓延を完全にストップさせた実績があります。
このように考えていくと、中国が新型コロナウイルスのワクチン開発では世界をリードする位置にいることが確認できます。しかし、特効薬でも有望なものが開発されており、「中和抗体」を使った新薬も開発が進んでいるとされています。
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(出典:2020年5月20日 時事通信)
中和抗体とは、ウイルスの活性化を抑制することのできる抗体のことです。北京大学のゲノミクス研究機関の謝暁亮所長の論文によると、61人の感染者から抽出した中和抗体を用いた新薬で動物実験を実施した結果、6日後にウイルスが減少し、感染を予防する効果も確認できたと発表しています。
一方、アメリカでは回復中の感染者の血液から採取された血漿(けっしょう)を投与する治療が試されています。すでに、安全性と治療効果が確認できているようです。今回の北京大学の中和抗体を用いた新薬は、これに類似した治療法です。
ところが、血漿は供給が限られており、現状では数億人単位の供給は不可能とされています。しかし、北京大学の中和抗体をベースにした新薬の場合、年内にも大量生産が可能であると主張しているわけです。
このように、中国によるワクチンの開発ペースがこのまま進んでいくことになれば、中国が世界で最も早くワクチンや新薬の開発に成功する国になる可能性が高いと言えます。そして、世界の公共財産として無償で供与されることになれば、中国の政治的な影響力がさらに強化されることになります。
発展途上国だけではなく、日本や欧米諸国などの先進国でさえ中国の供給に依存しなければならなくなる可能性もあります。
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(出典:2020年5月28日 NHK NEWS WEB)
当然、アメリカの安全保障に関わる政府や米軍、そして諜報機関などは危機感を感じるようになり、中国はアメリカの出方次第で供給を制限することできるようになります。
この結果、アメリカは新型コロナウイルスの蔓延を抑え込むのに、さらに時間がかかることになる一方、中国へ依存することはアメリカ人にとっても安全を脅かす脅威であることも認識されるようになるはずです。
今後、アメリカを中心とした製薬会社の市場も成立しなくなり、バイオ・ファーム産業分野にとって大きな損失を与えることになりかねません。すでに、多くの製薬会社は数億ドルをワクチンと新薬の開発に投資しています。
もし、中国が先に開発を終わらせて供給を始めた場合、資金の回収さえできなくなります。資金力のない中堅や中小の製薬会社だけではなく、一般的な病院なども存亡の危機にさらされることになるかもしれません。
アメリカとしては、ワクチンと新薬の開発競争で中国に先を越されることだけは、何としてでも回避しなければならないことです。
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