中国の次の一手は保有米国債の大量売却か、人民元急落容認で現実味
8月に入り、アメリカと中国の貿易戦争が一層激化していますが、いよいよ「貿易戦争」から「為替戦争」へと移行する前兆が見えてきました。
トランプ大統領は、さらに3000億ドル相当の中国製品に対し、9月1日から10%の制裁関税を課すと発表しています。閣僚級の米中通商協議が7月末に再開したものの進展がなかったことが原因とされています。
今回は、携帯電話やパソコンなどの消費財が関税の対象となり、アメリカが輸入する中国製品のほぼすべてが制裁関税の対象になるというわけです。一方、強く反発した中国政府は、国有企業に対してアメリカ産の農産物の輸入を停止するよう要請しています。
トランプ政権の強い支持基盤の中西部の農業地帯に打撃を与え、2020年のアメリカ大統領選挙に影響を与える目的があるものと考えられます。
このような報復関税が続く中、人民元相場が1ドル=7元台にまで下落しました。これまで中国政府は、7元を「防衛ライン」としていましたが、ついにその牙城が崩れたことになります。11年ぶりの人民元安となります。
急激な元安についてですが、アメリカの追加関税の導入による中国経済の減速を懸念したパニック売りが原因である、とトランプ大統領は主張しています。そして、中国を「為替操作国」に指定しました。
これは、貿易で有利になるよう意図的に通貨を切り下げた国に対して指定されるもので、今後は、これを是正させるためにアメリカ政府はIMF(国際通貨基金)と協議することになります。中国に対しては1994年に発動されて以来25年ぶりとなります。
そのような状況の中、いよいよ貿易戦争から為替戦争へと移行したと感じた世界各国の金融市場はパニックを起こし、8月6日のニューヨークダウ平均株価は今年最大の下げ幅となり、日経平均株価も大きく下落しました。
昨年12月以来の安値となり、中国や韓国株式市場などアジアの主要市場も軒並み下落しました。その後、株価は少し反発しましたが、未だに不安定な状況が続いています。
一方、国内からの抗議にあったトランプ政権は、中国との協議は継続するとしていますが、交渉次第では9月1日に適用予定の追加関税は実施しない可能性について言及しています。しかし、米中の対立が為替戦争へと変化したとみているようです。
このような状況の中、中国がどのような報復処置に出るのかですが、真剣に取り沙汰されているのが、「中国が保有する米国債の一斉売り」です。ウォールストリート・ジャーナルやブルームバーグなどが、すでに警告しています。
中国は、世界最大の米国債の保有国であり、1兆3000憶ドル以上を保有しています。保有国2位の日本は、1兆1000億ドルを保有していますが、保有国3位のイギリスは3200億ドルと大きく引き離しています。
保有率がピーク時の2013年と比較すると、中国は米国債を売り続けているのがわかりますが、このような状況なので「為替操作国」認定の報復処置として、保有する米国債の大量売りを行うのではないかと懸念されています。
昨年からトランプ政権の仕掛けた米中貿易戦争による将来の景気後退を懸念し、世界からアメリカに向かう投資は少しずつ減少しており、直接投資額がピークだった2015年と比べると、半分になっています。
これは米中貿易戦争の余波を懸念し、アメリカへの投資が控えられていることを示しており、同時にアメリカ経済の先行き不安もあるため、中国が報復処置として米国債の大量売りを行う可能性もあるということです。
もし中国が報復処置として米国債の大量売りに出た場合、米国債の市場価格の下落と長期金利の上昇が起きることは明らかです。これが本当に起こった場合、アメリカの景気を大きく減速させる要因になる可能性も否定できなくなります。
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